研究課題/領域番号 |
16K13739
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
林 亮子 金沢工業大学, 工学部, 准教授 (30303332)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | データマイニング / 有機化合物 / 発火点 / 決定木 / ランダムフォレスト / ケモインフォマティクス |
研究実績の概要 |
本年度は,前年度に実施した決定木を用いた発火点決定ルールに関する研究において,データ内容を精査して記述子を見直した.さらに新規データを追加することで,使用データを全面的に改訂した.そのデータを使用して決定木を再度作成したところ,前年度の実施結果をはるかに上回る興味深い結果が得られた.さらに,同じデータセットに対してランダムフォレストを適用し,決定木の結果と合わせて発火点と分子の部分構造の関係を調査した.その結果,発火点の予測性能の期待値としては決定木よりも良い結果が得られたが,予測発火点の最悪値の観点からは,決定木からの顕著な改善は得られなかった.以上の研究結果を国内会議および国際会議で発表し,さらに論文投稿を行って採択された.
本年度は,分子ワイヤ類例物質の調査を行った.重要な分子ワイヤ類例物質の一つは導電性高分子であり,ポリアセチレン,ポリチオフェンなどが知られていて,材料として実用化もされている.それらのうちで構造がもっとも簡素なものはポリアセチレンである.最も簡素な直鎖分子であるアルカンでは主鎖部分を含め全ての原子間結合が単結合であるが,ポリアセチレン類例の直鎖分子では,主鎖部分に二重結合を持つ.Gaussian09を使用して,炭素原子個数8~12個のポリアセチレン類例分子の構造最適化における実行時間を試験的に評価した.その結果,以下のことがわかった. 1.主鎖に二重結合を持つ分子では,主鎖部分が同じ長さの単結合分子に比べて実行時間が2倍程度になる. 2.主鎖部分が12個の炭素原子からなるポリアセチレン類例分子(2, 4, 6, 8-ウンデカテトラエン)の構造最適化では,デスクトップ計算機上で半経験的手法(PM3)を使用すると10秒程度,基礎的な量子化学手法(RHF/6-31G(d))では1000秒程度,第一原理手法(MP2/6-311+G(d,p))では数万秒を要した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
データマイニングの応用可能性の検討については,当初計画の「検討」という位置づけを大幅に超え,成果を得ることができている.さらに,国内外で口頭発表を行うとともに,ジャーナル論文の採択に至っている. 一方で,分子ワイヤ物質の探索については基礎調査までにとどまっている. 以上を総合して,研究計画調書に記載した目的と対比すると,次年度はもっと分子ワイヤ物質に関する内容を充実させたいところである.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,分子ワイヤ物質の類例物質の調査をさらに進める予定である.具体的には,引き続きポリアセチレン類例物質の調査を行う予定である.構造最適化シミュレーションを行って得られた構造と,現在知られている導電性発現のメカニズムとの関連について,既知の現象が量子化学シミュレーションでどの程度再現できるのか,使用する計算手法の理論的な複雑度との関係について,さらに調査を進めたい. さらに,複数ジョブの生成から実行,データ自動処理までを行うシステム開発を進めたい.これまで機能レベルで個々に作成してきたプログラムを統合する必要がある.
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題では,量子化学ソフトウェアGaussianを3ライセンス使用しております.研究期間内にバージョンアップがある見込みで予算計上しておりまして,実際にバージョンアップがありましたが,現段階では過去のバージョンと比較を行うため,新バージョンは1ライセンスのみ購入して使用しておりまして,残り2ライセンス分を保留しております.次年度に残り2ライセンス分購入予定です.
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