研究課題/領域番号 |
16K13740
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
小倉 鉄平 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (90552000)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マルチスケール / 三相界面 / 表面拡散 / 燃料電池 / 量子化学計算 / 遷移状態理論 |
研究実績の概要 |
本研究では、量子化学計算等を用いて表面化学種の拡散係数を算出する手法を確立することで、表面拡散を含む流体反応連成による三相界面マルチスケール解析を行う事を目的とする。マルチスケール解析に必要な研究課題として、1)分子動力学法によるNi表面の炭化水素系化学種の表面拡散係数の算出、2)量子化学計算によるNi表面の炭化水素系化学種の拡散遷移状態の探索、振動解析、3)遷移状態理論の応用による表面拡散係数の算出手法の確立、4)水素を燃料とした三相界面反応シミュレータのメタン燃料への拡張、5)3)で得られた拡散係数の組み込み、反応シミュレータへの対流拡散項の追加、6)反応シミュレータを用いた高精度マルチスケール解析、の6つにブレイクダウンし取り組む。 研究初年度である平成28年度は、1)~3)の3つの研究課題を実施した。課題1)においては、分子動力学計算ソフトウェアを用いて、Ni1000原子からなる(111)面上に炭化水素系化学種を吸着させたモデルを作成した。文献を元にNi-C系の適切なポテンシャルを決定し、温度を変えて分子動力学シミュレーションを行い、表面拡散係数の温度依存性を活性化エネルギーとPre-exponential Factorに分けて算出した。課題2)および3)においては、量子化学計算ソフトウェアを用いて、炭化水素系化学種のNi(111)面における吸着構造及び拡散遷移状態の構造最適化および振動解析を行った。遷移状態理論により1)と同様に活性化エネルギーおよびPre-exponential Factorを算出し、1)の計算結果や文献値と比較・検討することで、最終的に表面拡散係数の理論的算出手法を確立することができた。 本年度の研究実施内容は量子化学計算による表面拡散係数の理論的算出の可能性を示した重要な成果であり、第118回触媒討論会などで成果発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施により、量子化学計算による表面拡散係数の理論的算出手法を確立することができた。初年度にも関わらず成果発表も既に行っており、研究目的の達成度は順調である。ブレイクダウンした6つの研究課題のうち、1)分子動力学法によるNi表面の炭化水素系化学種の表面拡散係数の算出、2)量子化学計算によるNi表面の炭化水素系化学種の拡散遷移状態の探索、振動解析、3)遷移状態理論の応用による表面拡散係数の算出手法の確立、の3つの研究課題を実施し達成することができており、研究計画通りに進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成29年度は、前年に得られた拡散係数を用いて、表面拡散を含む高精度マルチスケール解析を行うことを目的とする。具体的には、ブレイクダウンした6つの研究課題のうち未実施の、4)水素を燃料とした三相界面反応シミュレータのメタン燃料への拡張、5)3)で得られた拡散係数の組み込み、反応シミュレータへの対流拡散項の追加、6)反応シミュレータを用いた高精度マルチスケール解析、の3つの研究課題に取り組む。 課題4)では、メタンを燃料とする場合に必要な反応やその熱力学・速度論パラメータを準備し、既にin-houseコードにて開発済みのSOFC三相界面汎用反応シミュレータを用いて過電圧と電流密度の関係性を得る。 課題5)では、本年度の研究実施で得られたNi表面における炭化水素系化学種の表面拡散係数を反応シミュレータに追加し、表面拡散を含む流体反応連成による三相界面反応解析ができるように改良する。余裕があれば、既に電解質表面での酸素イオンの拡散係数の影響が大きい事が分かっているため、そちらについても3)で確立した手法を元に、より精度の高い拡散係数を理論的に算出し、シミュレータに組み込む。 課題6)では、5)で得られた三相界面シミュレータを用いて、高精度なマルチスケール解析を行う。具体的には、メタンを燃料とした場合の三相界面近傍の気相化学種の濃度分布及び各表面化学種の被覆率分布や、電流・電圧特性、更に、反応流れ解析や、拡散も含めた感度解析などを行う。これらの解析により、拡散現象を考慮した主要反応経路や律速過程について知見を得る事ができ、三相界面における複雑な現象解明に役立つであろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品や旅費、謝金について、想定していたよりわずかではあるが使用額が少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分として請求した助成金と合わせて、計算機周辺消耗品や消耗図書:約29万円、学会参加のための旅費(触媒討論会などを想定):約33万円、計算補助のための学生アルバイト代:約41万円、その他学会参加費や論文発行費:約10万円を使用する予定である。
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