本研究では、量子化学計算等を用いて表面化学種の拡散係数を算出する手法を確立することで、表面拡散を含む流体反応連成による三相界面マルチスケール解析を行う事を目的とする。マルチスケール解析に必要な研究課題として、1)分子動力学法によるNi表面の炭化水素系化学種の表面拡散係数の算出、2)量子化学計算によるNi表面の炭化水素系化学種の拡散遷移状態の探索、振動解析、3)遷移状態理論の応用による表面拡散係数の算出手法の確立、4) 水素を燃料とした三相界面反応シミュレータのメタン燃料への拡張、5)3)で得られた拡散係数の組み込み、反応シミュレータへの対流拡散項の追加、6)反応シミュレータを用いた高精度マルチスケール解析、の6つにブレイクダウンして課題に取り組んだ。 最終年度である平成29年度において、4)~6)の3つの研究課題を実施した。課題4)では、in-houseコードにて開発済みの水素を燃料としたSOFC三相界面反応シミュレータを改良し、過去に実施した計算結果や文献を参考にメタンのNi表面における素反応およびCOの三相界面における電荷移動反応を組み込んだ。課題5)では、昨年度得られたNi表面における炭化水素系化学種の拡散係数をデータとして追加した。更にコードを改良し対流拡散項を支配方程式に追加することで、対流・拡散・反応・電荷移動全てを考慮した精度の高い反応シミュレータを得ることができた。課題6)では、改良が終了した反応シミュレータを用いて、メタンを燃料としたSOFCにおける様々な運転条件での三相界面近傍での表面化学種の濃度分布や電流電圧特性を明らかにした。 本研究で得られた表面拡散係数の算出手法およびマルチスケール反応解析シミュレータにより三相界面近傍の複雑な現象解析が可能になった。この成果はSOFCの高耐久・高効率化に向けた電極触媒材料開発に大いに役立つと期待される。
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