研究課題/領域番号 |
16K13752
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 晃史 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (10211848)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 箙 / 変異 / 分配関数 / 三角圏 / 不変量 / クラスター代数 |
研究実績の概要 |
箙(quiver)とその変異(mutation)は,クラスター代数とともに,可積分系・低次元トポロジー・表現論・代数幾何学・WKB 解析などさまざまな分野に共通して現れる構造として注目を集めている.特に,箙の変異列 (mutation sequence) から系統的にゲージ理論や3次元双曲多様体を構成する方法が提唱され,その不変量を数学的に厳密に解析する手段の開発が必要となった. 加藤は寺嶋郁二氏(東京工業大学)との共同研究において、与えられた箙変異の列 γ (quiver mutation loop = クラスター代数の exchange graph 上のループに相当)に対し、分配 q 級数 Z(γ) と呼ばれる母関数を定義したがこの考え方は、quiver mutation loop のような周期境界条件ではなく、初期条件のみを指定した有限区間 (quiver mutation sequence) に対しても適用可能である。この場合は終状態に対する自由端条件を表すために、 c-vector で次数付けされた非可換トーラスに値を持つ関数として考えるのが自然である。加藤は、寺嶋郁二氏と水野勇磨氏(ともに東京工業大学)との共同研究において、Boltzmann weight を q 二項係数とする分配関数(partition function)を導入し、その性質を調べた。この分配関数は、実は引数の異なる2つの分配 q 級数の比として書けることが証明できる。その結果、分配関数もまた分配 q 級数が持つ様々な良い性質を引き継いでいる。たとえば、 q 二項係数が満たす Stanley の関係式は、分配 q 級数がペンタゴン関係式を満たすことの帰結として導くことができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
最近母親を看取ったが、その精神的ダメージからようやく回復できるかと思われた矢先、今度は父が体調を崩して緊急入院するなど、通院、介護、入退院、各種手続きなどに再び忙殺されることとなった。授業や各種委員の業務など代理を頼めない最低限の仕事をこなすのに精一杯で、時間的にも精神的にも、なかなか研究に専念することができない。残念ながら、研究は予定通りには進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
分配 q 級数や分配関数は組合せ論的データのみから定義され、箙が表す数学的対象の詳細には依らないので、双対性の背後にある共通の性質や量子化の機構を追究する上で役立つと期待される。引き続き、圏論的なモノドロミー問題との関わりを追究してゆく。分配級数の q 二項係数版は、当初は想定していなかった、統計力学における Bethe 仮設や Kirillov-Reshetikhin 加群との関係、Donaldson-Thomas 理論と ODE/IM 対応の関係が射程に入ってきたので、可積分系やモノドロミー保存変形の手法を利用した研究に本格的に取り込んでゆくつもりである。また、q が1の冪根の場合の Skein 代数の自己同型と写像類群の関係も非常に興味深い研究対象であると思われるので、当面はこれを集中的に研究するつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)【現在までの進捗状況】の項に書いた理由により、平成29年度はこの研究課題に取り組むことが困難であったため。
(使用計画)今年度は昨年度の遅れを取り戻すべく、研究集会にもできるだけ参加して情報収集につとめる予定である。また、研究の効率化のためにも、これまで騙し騙し使用していた老朽化したパソコンシステムの買い替えを進める予定である。
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