研究課題/領域番号 |
16K13763
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
梶原 健司 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 教授 (40268115)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 離散微分幾何 / 離散曲線 / 離散可積分系 |
研究実績の概要 |
今年度は(1)曲線短縮方程式の離散化,(2)外力項付きの複素Dym方程式の時間離散化,(3)非線形境界条件下での多孔質媒質中の界面モデルに取り組み,特に(3)に関しては予定していた研究成果を得た.(3)においてはBroadbridge-Whiteモデルと呼ばれる,非線形境界条件下の1次元非線形移流拡散方程式の離散モデルの構築を試みた.このモデルは本質的にホドグラフ変換によってBurgers方程式に帰着し線形化されるが,境界条件が非線形で,かつホドグラフ変換を含むので離散化は非自明である.この問題に対して相似幾何における離散平面曲線の変形理論を援用することで,安定かつ高精度な数値計算が可能な離散時間モデルを,自己適合移動型格子数値計算スキームの形で構築することができた.ただ,本質的な部分で可積分系ではあるが,安定性と高精度を実現するには数値計算の理論の立場からの別の考察とスキームの修正が重要である.(2)は複素Dym方程式とホドグラフ変換で移り合う外力項付きのmodified KdV方程式を双線形方程式の立場から考察し,τ函数を具体的に構成して特徴付けを得た. また,当初の計画にはないが,相似幾何における平面曲線,平面離散曲線の理論の副産物として,CADで用いられる美的曲線と呼ばれるクラスの曲線が,相似曲率の2乗を最小化する変分問題の解として特徴付けられること,すなわち美的曲線がユークリッド幾何の弾性曲線の相似幾何類似であることを見出した.このことを用いて,与えられた(端点の固定された)曲線を美的曲線で近似するフェアリングの新しいアルゴリズムを構築した.また,離散弾性曲線による離散曲線のフェアリングという課題が新たに浮上し,予備的な研究として,離散弾性曲線の離散変分原理による定式化を行い,離散単振子方程式との同値性を見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初設定した(1),(2),(3)の課題のうち,(3)については当初の計画を越えるよい成果が得られた.(2)についてはまだ途上であり,(1)については着手を始めた段階である.しかし,相似幾何における平面曲線の理論から,美的曲線とその離散化,および,弾性曲線とその離散化によるフェアリング(エネルギー函数を最小化する勾配流による変形:非可積分)という課題が新たに浮上し,予想していなかった新たな展開が見られている.また,得られた成果に対して論文の執筆が予定より遅れている. 理由としては,本計画の枠内で当初想定していなかった魅力的な研究テーマ(美的曲線とその離散化)が浮上してそちらにエフォートを集中したこと,また,他の研究プロジェクトの成果が大きく,そちらにエフォートを割かなければならなかったことが挙げられる.また,所属機関の管理運営や国際プロジェクトのマネージメントに予想以上のエフォートを使わざるを得ず,計画通りの十分なエフォートを本研究計画に割けなかったことも反省材料である.ただし,これまで研究上の特段の困難はなく,エフォートが十分使用できる状況であれば研究は計画通りに進んだと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は予定通り(1)曲線の伸縮や外力を伴う曲線変形の離散時間モデル,(2)界面のダイナミクスの離散時間モデルに加えて新たに浮上した(3)弾性曲線および美的曲線の離散化とフェアリングについて研究を進める.(1)では曲線短縮方程式の離散化の研究に早急に着手し(連携研究者:廣瀬三平,丸野健一),離散モデルを実装する.(2)では外力項付きのDym方程式の双線形化を進め,離散化を行う.また,離散複素Dym方程式の外力項を拡張してHele-Shaw流に適用する(連携研究者:筧三郎,丸野健一).(3)では弾性曲線と美的曲線の離散化を離散変分原理で定式化し,それに基づいてフェアリングのアルゴリズムを構築する.さらに,結晶粒界のダイナミクスを記述するBroadbridgeモデルの離散化を行い,その数値シミュレーションを行う(海外連携研究者:Philip Broadbridge). 九州大学と早稲田大学,立教大学,芝浦工業大学の間で4回程度の研究打ち合わせを予定している.また,ラ・トローブ大学を1度訪問し,Broadbridge教授と研究打ち合わせを行うとともに,成果発表を行う. 28年度は所属機関のプロジェクト運営に予想以上のエフォートが費やされたが,ほとんどが28年度で終了したため,29年度は当初の計画以上のエフォートを本研究計画に使用できる見込みで,当初の研究計画は十分達成できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
海外研究協力者であるLa Trobe大学のBroadbridge教授との研究打ち合わせに関して,所属機関のプロジェクトと連携して行うこととなり,所属機関に措置された資金で渡航ができ,また海外での成果発表についても同じ資金から支出をすることができた.また,国内研究協力者との打ち合わせも協力者が順調に競争的資金の獲得に成功し,その資金も使用して行うことができたため.
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度資金を使用した所属機関のプロジェクトが今年度末で終了したため,次年度は本研究費を多く使用する.特に,La Trobe大学での研究打ち合わせと国際研究集会での成果発表が予定されており,そのために本研究費を使用する.また,国内研究協力者との打ち合わせにも本研究費を主に使用する.
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