研究課題/領域番号 |
16K13770
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
堤 誉志雄 京都大学, 理学研究科, 教授 (10180027)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非線形シュレディンガー方程式の高階拡張 / 准不変測度 / ガウス測度 / 平滑化効果 / 共鳴周波数 |
研究実績の概要 |
1996年にBourgainは非線形シュレディンガー方程式に対し,Gibbs測度の構成に成功した.それ以前の方法は,「Gibbs測度が乗っている台空間で時間大域解を構成することができれことを用いてGibbs測度を構成する」,または「Gibbs測度が構成できれることを用いてGibbs測度の台空間における時間大域解の存在を示す」の二通りであった.それに対し,Bourgainは,Gibbs測度の構成とその台空間での時間大域解の存在を同時に示す新しい方法を開発し,確率論的手法の非線形偏微分方程式への応用を飛躍的に拡大した.しかしその一方で,Gibbs測度の台空間はハミルトン系のエネルギー汎関数と空間次元によって決まるため,例えば,空間n次元の非線形シュレディンガー方程式の場合,台空間は指数(1-n/2)のソボレフ空間より広い関数空間となる.このような広い(弱い)関数空間で非線形偏微分方程式を考えるのは困難を伴う.そこで,Gibbs測度のような不変測度ではないが,それと類似の性質を持つ准不変測度(quasi-invariant measure)を考察することによって,不変測度の代用とできないかという問題が自然に生ずる.この方面の研究は,Nikolay TzvetkovやTadahiro Ohによって始められた.最初のステップとして,ガウス測度が非線形発展方程式から生成される流れに対して准不変となるかどうかが問題となる.平成29年度は,非線形シュレディンガー方程式の高階への拡張の一つである,3次分散項付き非線形シュレディンガー方程式に対し,ガウス測度が准不変となるかどうかを調べた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無限次元空間においては,ルベーグ測度のような平行移動不変性あるいは回転不変性を持つ測度は適切に(たとえば,有界ボレル集合の測度が有限になるように)定めることはできない.そこで,ガウス測度および重み付きガウス測度は,無限次元空間における測度として最も自然であると考えられている.実際,統計物理で重要なGibbs測度は,ハミルトン汎関数に関連した重み付きガウス測度である.ハミルトン系の解の漸近挙動を調べる際に,Gibbs測度のようはハミルトン系から生成される流れに関して不変な測度は,多くの情報を含んでおり重要な役割を果たすことはよく知られている.他方で,Gibbs測度の台空間は,非線形発展方程式であるハミルトン系の解を考える空間としては非常に弱い空間であり,存在を示すこと自体が困難なことが多い.その観点から,不変性を弱めた準不変な測度を研究することは自然である.今回は,3次分散項付き非線形シュレディンガー方程式を例に取り,台空間がどのようなソボレフ空間であれば,ガウス測度が準不変となるかを,Nikolay Tzvetkov氏 (University of Cergy-Pontoise)とTadahiro Oh 氏(University of Edinburgh)との共同研究により調べることにした.Ramerの定理より,大ざっぱに言って,Duhamel項が1階微分を越える平滑化効果を持つことが示されれば,3次分散項付き非線形シュレディンガー方程式のよって時間発展したガウス測度は初期時刻のガウス測度と互いに同値,即ち,絶対連続となることが従う.非線形相互作用に現れる共鳴周波数のため,1階微分を越える平滑化効果はそのままでは得られない.そこで,それを排除するために,解自身に依存したゲージ変換を行うことにより,一定の平滑化効果が得られることが分かってきた.
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今後の研究の推進方策 |
確率論的には,無限次元空間における非線形変換によって測度がどのように変換されるのか,と言う研究は古くからなされてきた.(これは有限次元の場合,多重積分の変数変換に相当しているため,ヤコビの定理と呼ばれることも多い)おおむね,1974年のRamerの仕事により一般論は完成したと考えられている.しかし,個々の非線形発展方程式に対して,ガウス測度が準不変性を持つかどうかと言う研究は始まったばかりである.この方面の研究は,Nikolay Tzvetkov氏とTadahiro Oh氏によって始められた.そこで,両氏の現在までのガウス測度の準不変性に関するt研究と,研究代表者が非線型分散型方程式研究で培ってきた,共鳴周波数と平滑化効果の関係に関する研究とを組み合わせることにより,新たな展開を目指す. そのために,12月に京都で非線形波動・分散型方程式における確率論的研究に関する国際研究集会を開き,そのときにTzvetkov氏とOh氏を京都に招へいする.また,研究代表者は,関連する分野が盛んに研究されているドイツ,米国に出張し,当該分野の専門家と意見交換を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
最近,非線形偏微分方程式では扱いづらいGibbs測度のような不変測度の代わりに,非線形発展方程式によりガウス測度あるいは重み付きガウス測度がどのように時間発展するのかを調べる研究が注目を浴びるようになった.特に,ガウス測度の準不変性に関する研究は,研究代表者が現在までに行ってきた,非線形相互作用における共鳴周波数と平滑化効果の研究が有効であることが明らかになりつつある.そこで,研究方向を非線形波動・分散型方程式の流れによってガウス測度を時間発展させたときに,ガウス測度がどのように変換されるのかを調べることに重点を移すことにした.この方面の研究で先駆的な仕事をした,Nikolay Tzvetkov氏 (University of Cergy-Pontoise)およびTadahiro Oh (University of Edinburgh)と共同研究をすることとし,両氏の京都大学招へいと研究代表者のドイツ,米国出張により,当該分野の専門家と意見交換を行う.
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