本研究の目的は、ベイズ統計、特に統計的決定理論の立場から、量子物理実験で実際に使える範囲でよい推定・測定を検討することである。字数制限のため各年度の主要実績について述べる。 研究提案時の予備実験として1量子ビットについて2パラメータをもつモデル(ブロッホ球を平面内に制限したモデル;便宜上、円板モデルとよぶ)で、標準的な射影測定1組に基いたベイズ推定と4種類の射影測定に基いたベイズ推定で、二乗誤差の下、比較を行った。サンプル数が少ない状況で数値的には後者がうまくいくことを確認済みであったが、数値計算の精度や理論的な考察が皆無の状態だった。 2016年度は高性能のワークステーションを導入し、サンプルサイズを600~2000程度で行った。モンテカルロシミュレーションによる推定誤差のばらつきを0.1% 程度にするために必要なモンテカルロループのオーダーを見積もることができた。 2017年度以降は、数値計算について協力予定だった研究者も職業的な事情で参画できなかったため、サンプルサイズが十分大きい下での理論解析に集中した。従来は任意の点での原理的な推定誤差の下限の議論が多かったが、本研究では「既存の手法の一様な改善」および「許容性」に注目して研究を進め、円板モデルで「従来の射影測定は非許容的。つまり、一様に改善する情報過剰完全な測定が存在する。」といった許容性に関する結果を得た。特に純粋状態に近いほど改善する。2018年度は関連研究を調査、最小数のSIC測定に比べて過剰完全なSIC測定を用いる方が純粋状態に近いほど推定性能がよいという、私の主張を裏付ける結果を得た。また、実際の実験データを用いて機械学習での判別分析を行う先行研究があり、これまでの研究結果と結びつけるための検証も行った。
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