本研究では、土壌中の水の流れや生体組織内の流れ、植生を伴う湖沼内の水流や森林を通り抜ける風の流れなど、生体から環境までの幅広い分野に現れる多孔性媒質内の流れを研究対象とした。多孔性媒質内の流れの特徴は、局所的な微細構造に由来する幾何形状の特徴が、ミクロ(微視的)な流れの構造を通してマクロ(巨視的)な流れに影響を与えていることである。このような、空間スケールが大きく異なる現象が相互に影響を及ぼし合っているマルチスケール現象は計算機によるシミュレーションが困難なことが多く、数値シミュレーション技術が大きく進んだ現代にあっても重要な課題の一つとなっている。本研究ではそのようなマルチスケール現象の一つとして多孔性媒質内の流れの現象を取り上げ、ミクロとマクロの視点をつなぐ数理モデルの構築を目指し、数値解析を主なツールとして研究を行ってきた。主な対象としたのは、(1)複雑な流路構造を持つ多孔性媒質内の流れを、その流路の幾何形状をできるだけ忠実に再現して計算するアプローチ、(2)ミクロの構造の違いは空隙率など何らかのパラメータによって表現し、平均的に全体を見て計算するアプローチ、のふたつである。またその中間として、(3)流路の幾何形状は埋め込み境界法などの比較的簡便な手法を用いて表現し、それらに摩擦型境界条件を適用することでミクロの効果をマクロの方程式に取り込むこと、についても検討した。それらを総合することで、それそれのアプローチの長所短所を把握し、それらの間の関係性をより明確に理解できたことが、本研究の成果である。 本研究の成果の一部は何回かの講演で発表したが、計算結果についてはまだ補充する必要があるため、論文として投稿するのはそれらの作業が完結してからとなる。
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