研究課題
近年、2光子励起顕微鏡等を用いた計測技術の発達により感染のリアルタイムイメージングが可能になってきた。これらのデータを定量的に解析するためには、ウイルス感染の時空間動態を記述できる数理モデルの構築が希求されている。本研究では、主に培養細胞を用いたボルナウイルス感染実験から得られる時空間データを扱う。そして、反応拡散方程式による数理モデルの数学的枠組みおよびそれらを用いたデータ解析理論を構築し“時空間ウイルス学”を展開している。常微分方程式では、完全混合状態を仮定している事より空間的に離れた細胞同士が相互作用する事を許容している。この様な数理モデルでは顕微鏡解析で観察されるような近傍の細胞同士に限定されたcell-to-cell感染の実態を捉える事ができない。そこで空間構造を考慮した反応拡散方程式を構築し、これらのウイルス感染を記述した。また、格子モデルを用いて空間的な相互作用を考慮した数理モデルの開発も行った。開発した反応拡散方程式のシミュレーションにはFreeFEM++を用いて実装を進めている。本数値計算は、有限要素法による領域メッシュ分割、弱形式表現である事より積分方程式の数値計算、可視化プロットを容易に行う事ができる。また、MATLAB や MATHEMATICAのmethod of lines (PDE を ODE の束にして大規模ODEを解く方法)によるシミュレーション結果と比較する事で動作検証も行っている。
1: 当初の計画以上に進展している
細胞内のウイルス複製動態を考慮した個体ベースシミュレーションを開発している。ここで開発している個体ベースシミュレーションは、思いがけず様々な生命現象に応用可能であることが分かった。これは、数学が持つ”ユニバーサリティ”であり、応用数学に求められている重要な役割でもある。現在、同手法を発展させて異なるウイルス感染の実験データの解析にも取り組み始めている。
非感染細胞であるOL細胞と持続感染細胞であるOB細胞を標的細胞として感染実験を行った結果、OL細胞間においてボルナウイルスが効率的に感染を伝播する事が分かった(①:フォーカス数)。さらに、その原因を調べるために各感染細胞内で複製されるゲノム数を解析すると、OL細胞において効率的にウイルス複製が行われている事も明らかになった(②:ミニゲノム)。ボルナウイルスは主にcell-to-cellで感染を広げる事実と合わせて考えると、感染細胞内のウイルスゲノム数に応じて感染力、あるいは、反応拡散係数が変化する事が予想される。そこで、より詳細な実験データを取り込んで解析するために、個体ベースのシミュレーションを開発していく。開発した個体ベースシミュレーションによるデータ解析を進めることで、標的細胞の違いに応じたパラメータ推定を行い、ボルナウイルスの感染機構を明らかにする。
研究の進捗が予想以上に進んで個体ベースシミュレーションの開発に早期に取り組んで研究打ち合わせを後ろ倒ししたため。今年度に集中的に研究打ち合わせを行う予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 4件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件)
Journal of Theoretical Biology
巻: 448 ページ: 80~85
10.1016/j.jtbi.2018.04.006
Proc Natl Acad Sci U S A
巻: 115 ページ: E1269-E1278
10.1073/pnas.1715724115
Cell Host Microbe.
巻: 23 ページ: 110-120
10.1016/j.chom.2017.12.009
Sci Rep
巻: 7 ページ: 6559
10.1038/s41598-017-03954-9
巻: 114 ページ: E4527-E4529
10.1073/pnas.1705234114
PLoS Pathog
巻: 13 ページ: e1006348
10.1371/journal.ppat.1006348
Theor Biol Med Model
巻: 14 ページ: 9
10.1186/s12976-017-0055-8
Nat Med
巻: 23 ページ: 611-622
10.1038/nm.4326