N 体問題は多くの保存量を持ち,その運動方程式は時間可逆性を持つ.しかしながら,全ての保存量と時間可逆性を保つ数値解法は今まで知られていなかった. そのため,研究代表者は Mikkola のシンプレクティック数値積分法 (LogH) とスケーリング変換を組合せることで,全保存量のみ及び双方を保つ解法を提案した.前者は高速な陽解法であるが,再現できない周期解が多くある.それに対して,後者は 2 次の解法に過ぎないが,ほとんどの周期解が再現可能である.後者は陰解法であるため,前者の陽解法より1ステップ当たりの計算量が増加するものの,8 次の陽的シンプレクティック数値積分法よりは少なくて済んでいる. N 体問題の特殊例として,主星‐伴星‐惑星系,2 惑星系を示す 3 体問題がある.この平衡点は,内側にある惑星が安定して運動できる領域を決定する.一方,この惑星が実際に持つ運動領域は 3 体問題の保存量で決まる.そのため,この領域が安定した運動可能領域に含まれれば,内側の惑星は必ずしも周期的ではないものの安定した運動を続けることができる.後者の解法は全ての保存量を保つだけでなく,3 体問題の平衡点を持つことも証明されている.したがって,この解法は,非周期軌道を持つ惑星の運動領域と安定運動可能領域の双方を正確に再現できている. LogH 法を含む従来の数値解法,前者の解法では 3 体問題の周期軌道すら再現できないことがあったが,後者の解法では非周期軌道の存在領域も正確に求めることができる.この解法によって,極めて正確かつ長時間にわたる惑星軌道の再現,及び,その軌道が持つ安定性評価が可能となった.
|