研究課題/領域番号 |
16K13784
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
佐藤 文衛 東京工業大学, 理学院, 准教授 (40397823)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光学赤外線天文学 / 太陽系外惑星 / 高分散分光 / 早期型星 |
研究実績の概要 |
本研究では、発見が困難である早期型星(BA型星;>1.5太陽質量)周りの惑星を検出するための新たな手法を開発することを目的としている。具体的には、従来の視線速度法のように惑星による中心星の視線速度変化を検出するのではなく、周囲を回る惑星の放射スペクトルを近赤外高分散分光観測によって直接検出することを試みる。早期型星のスペクトルには吸収線がほとんど見られないため中心星の視線速度を精度よく測定することはできないが、逆に中心星のスペクトルに埋もれた惑星のスペクトルは検出しやすくなると考えられる。 今年度は、理想的な疑似観測データに基づいた解析手法のシミュレーションと、惑星の理論スペクトルの作成に取り組んだ。前者では、まずケック望遠鏡のNIRSPEC分光器での観測を想定し、トランジット観測によって惑星が見つかっている早期型星WASP-33系の観測を模した疑似データを作成した。主星と伴天体のスペクトルを所定のフラックス比で足し合わせて規格化し、分光器の波長分解能に相当する幅をもつガウシアンを畳み込んで模擬データを作成した。作成した模擬データとCO吸収線のデータの相互相関関数を計算することで、現実的なS/N比のもとで伴天体のシグナルを検出できることを確認した。後者の理論スペクトルについては、WASP-33を周回するホット・ジュピターを想定したモデル計算を行った。先行研究により得られている同惑星の大気構造に基づいて、Kバンドでの惑星放射スペクトルを計算することができた。 これらの取り組みにより、次年度にさらに詳細な観測シミュレーションを行う素地を整えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の当初計画では、疑似観測データの作成とそれを用いた解析手法のシミュレーションを優先的に取り組む事項として挙げた。さらに、データアーカイブから同様の観測を行ったデータを入手し、また、自らも観測を実施することで、これらを利用してデータ解析の手法を検証する計画であった。 シミュレーションについては、基本的な部分は今年度中に実施することができた。ただし、現時点の疑似観測データは地球大気スペクトル等を取り込んでいない、ある種の理想的な状況下での疑似観測データであるため、次年度はより現実的なものに進化させていく。また、今回新たに計算した惑星放射スペクトルもまだ観測シミュレーションに取り込んでいないので、これも次年度の課題である。 上記の2点目については、ケック望遠鏡のデータアーカイブからホット・ジュピターを有する太陽型星について同様の観測をしたデータを取得し、当初これを解析してみることを試みた。しかし、太陽型星の場合は、恒星のスペクトルを観測スペクトルから取り除く過程が非常に難しい。一方本研究では、恒星の吸収線がほとんど現れない早期型星を対象としているため、この過程の手法を構築することに現時点で時間を費やすのは得策ではないと判断した。また、自ら観測を実施しデータを取得する機会は今年度はなかった。 以上のように、今年度は主として予定していたシミュレーションの基本的な部分を実施することができたため、全体としては概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、系外惑星発見のための新しい観測手法の開発である。今後は疑似観測データを用いた観測シミュレーションの精度を上げていくとともに、開発した手法を実際の観測データに適用することによって、手法の有用性の検証と新たな系外惑星の発見を目指していく。 次年度は、まず、より現実に即した疑似観測データの作成に取り組む。具体的には、地球大気のスペクトルを模擬観測スペクトルに組み込み、さらに実際に生じうる機器的な誤差を考慮した疑似データを作成する。これらは実際の観測では惑星の検出を阻害する要因となり得るが、現在のシミュレーションでは考慮されていないため、これらが惑星の検出感度に与える影響を調査し、さらに解析においてこれらを適切に処理するための方策を検討する。さらに、今年度は惑星の理論放射スペクトルを観測シミュレーションには取り込むには至らなかったので、次年度はこれも取り込んでシミュレーションの精度を上げる。 また、最近のトランジット観測の進展によって、早期型星周りの惑星候補が新たに複数発見されてきている。これらの惑星は、本研究で開発する手法が適用できるよい観測対象であることから、今後すばる望遠鏡などに観測提案を行い、複数の早期型星周りの惑星に対して同手法の検証を試みていく。また、これらの実際の観測データに基づいて、惑星理論スペクトルについてもより現実的な物理モデルと組成を考慮した計算を行い、モデルの精度をさらに高めていく。 このように、観測シミュレーション、実際の観測、理論モデル、という3つをうまく連携させながら、研究を推進していく。
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