研究課題/領域番号 |
16K13787
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林田 清 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (30222227)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | X線天文学 / X線干渉計 / X線検出器 / 超小型衛星 |
研究実績の概要 |
X線天文衛星に搭載されるX線反射望遠鏡の角度分解能としては、Chandra衛星の0.5秒角が最高で、これを再現するあるいは凌駕することはコスト的にも技術的にも困難とされている。また、X線反射望遠鏡の焦点距離は3-12mと長く、衛星自体を小型化することも難しく、打ち上げ頻度がましている超小型衛星の利用は見込めない。 本研究では、反射望遠鏡を用いない方法で、X線天体のひろがりを高い分解能で測定する、新たな方式の撮像計・干渉計を提案している。構成は単純で、数ミクロン間隔の周期の回折格子とX線分光撮像検出器をくみあわせるだけである。格子の影を検出器で撮像し、それを格子の周期で重ねあわせる。こうして得られた像は、X線光源、つまりX線天体のひろがりを反映したものになる。X線の波長と、検出器までの距離によっては回折が無視できなくなるが、タルボ効果と知られている条件を満たす波長のX線だけ選択すると、干渉によってやはり格子のプロファイルが得られる。我々は、このような原理をX線多重像撮像計、干渉計とよんでいる。 本研究では、マイクロフォーカスX線源を光源に用いて、4.8umピッチの格子とCMOS検出器(SOI技術を用いて製作された開発中の素子XRPIX)を組み合わせた基礎実験を実施した。検出器の複数のピクセルにまたがるX線イベントを利用することでピクセルサイズの0.7倍の周期の構造を検出すること、光源と検出器間の距離約1mで干渉像を得るのに成功した。この配置では点源からの拡大撮影になっているが、平行光の場合に換算すると2.8秒角の角度分解能を現時点で達成していることになる。 並行してフレネル回析を利用したシミュレーション計算を行い、タルボ条件を10%くらいずれた波長でも撮像に使用できるという評価を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基礎実験に関しては、現有装置と前年度までに開発された装置を最大限活用しているため、比較的スムースに立ち上げできた。ただし、撮像のパラメータの調整と、解析手法の試行錯誤とプログラム作成に時間がかかり、干渉像を得るのが年末になった。実験室の移動の関係で、より細かい調整を完了するまでにいたっていないが、原理実証の一段階は達成したと考えている。 シミュレーションに関しても、限定的な条件ながら計算を実施し、こちらからも、本研究で提案する原理の撮像法が有効であることがしめされつつある。 以上をもって、おおむね順調に進展していると自己判定した。
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今後の研究の推進方策 |
基礎実験とシミュレーションを通して、いくつかの問題点もみえてきた。一番の問題点は、現在の検出器のピクセルサイズ30ミクロンが格子の周期4.8ミクロンに対して大きいことである。電荷分割解析を導入して、検出器面上で21ミクロン周期の構造まで検出できているが、さらに4-5倍の位置分解能が望まれる。これに対しては、検出器の動作パラメータを調整し電荷のひろがりをより大きくさせるなどを試すとともに、微細ピクセルのCMOS検出器(必ずしもX線用途ではないが可視光用を流用して)を導入する予定もある。 もう一つの問題点は格子の仕様で、格子が200ミクロン厚のシリコン基板の上につくられているため10keV付近のX線には十分使用できるが、5keV以下のX線に対しては効率が落ちる。より薄い基板の格子の製作を検討中である。 本研究は、新原理の撮像法の基礎研究であるが、学会等で精力的に発表を続けた結果、関連分野の研究者の興味をひいている。具体的な衛星計画を立案し、目標として定めることも重要と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新しい仕様の回折格子を新規製作し導入する予定であったところ、現有の4.8ミクロンの実験の調整で干渉縞をえることが可能であったため、それを用いた実験を優先した。
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次年度使用額の使用計画 |
現有の回折格子ではX線透過率などで問題のあることも判明してきたので、改めて、実験結果を反映して最適な回折格子を検討し仕様を決定、年度前半に注文したい。
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