研究課題
1993年打ち上げのあすか衛星以降、X線天文衛星の標準形は斜入射反射望遠鏡と、X線ピクセル検出器(CCD)を組み合わせたものになっている。角度分解能は、望遠鏡側の性能で決まっている。すざく衛星は約2分角、XMM-Newton衛星は15秒角で、サブ秒角あるいはそれ以下が実現されている長波長側の観測結果と比較する際には、不十分であるケースが多い。一方、1999年に打ち上げられたChandra衛星はX線望遠鏡として例学的に高い0.5秒角の角度分解能を実現しているが、これを再製作するのはコスト的、技術的に困難とされている。また、斜入射反射望遠鏡を使用する限り3-12mといった長い焦点距離が必要で、衛星が大型化するという点も問題点である。本研究は、位相コントラストイメージングの一手法として実用化されているX線タルボ干渉計の構成をベースに多数の像を重ねあわせる、新たな原理の天文用X線干渉計、多重像X線干渉計MIXIMを提案している。回折格子とX線ピクセル検出器だけを組み合わせた単純な構成で、サブ秒角の位置分解能を、超小型衛星におさまる50cmサイズで実現する。昨年度までの実験で、4.8ミクロンピッチの格子とピクセルサイズ30ミクロンのX線ピクセル検出器を用いて、マイクロフォーカスX線源を光源とする拡大撮影で、干渉縞を得ることに成功していた。今年度は、ピクセルサイズ4.25ミクロンの可視光用CMOS検出器を導入、これが室温動作でX線光子検出できることを示した。これを用いて、SPring8の200mビームラインで準平行光を照射、12.4keVのX線に対して46cmの格子-検出器間距離で干渉縞を検出することに成功した。像幅は1秒角に対応する。同時にX線偏光検出にも成功した。近傍活動銀河核のトーラスを偏光情報をまじえて撮像分解し、活動銀河核統一モデルの検証を目ざす。
2: おおむね順調に進展している
最終的な目標である、平行光を用いたX線干渉縞検出に成功した。これを実現するために必要なのがX線光子検出の高い位置分解能である。サブピクセルの位置分解能を得るデータ処理の手法、電荷分割解析を導入したことに加え、可視光用に開発されている微小ピクセル(4.25ミクロン)のCMOS検出器に着目、X線検出できることを実証した点が大きい。より開口率の小さい回折格子の調達のスケジュールが遅れ、期間延長したことを考慮しても、当初の予定より進展したと考えている。
これまで多重像X線干渉計に使用してきたピッチ4.8ミクロンの回折格子は、X線タルボ干渉計で用いられるのと同じ開口率0.5のものであった。SPring8実験で像幅1秒角相当の干渉縞を得た際にもこれを用いている。現在納入待ちの状態にあるのが、開口率0.2の回折格子で、これを使用することで、0.4秒角、つまりChandra衛星の分解能を超える解像度を得ることをめざしている。本研究で提案している多重像X線干渉計は、もともと超小型衛星を念頭においたもので、それが第一目標であることかわりはないが、具体的な観測を検討をしていく過程で、フォーメーションフライトを利用し、例えば100mの距離に格子と検出器を設置するアイデアも発案している。この場合、0.01秒角という角度分解能が期待される。
本研究で使用する回折格子の製作施設で製造装置の故障が起こり、注文していた製品の納入に約3カ月の納入遅延が生じた。実験室での実験、放射光施設での実験などに遅延が生じるが、納入後は当初の計画通りの実験を実施する。
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すべて 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 11件、 査読あり 14件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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