研究課題/領域番号 |
16K13793
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
時安 敦史 東北大学, 電子光理学研究センター, 助教 (40739471)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 半導体検出器 / 極低温検出器 / アクシオン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は新手法による暗黒物質の探索を行うことである。暗黒物質は宇宙の構成要素の約25%を占めることが判明しているが、その正体に関しては超対称性粒子、褐色矮星等様々な説が提唱されている。アクシオンはその中でも有力候補とされている未発見粒子である。アクシオンはもともと量子色力学(QCD)において、粒子反粒子対称性が保存されている現象を説明するために理論的に導入された粒子である。強磁場と共振空洞を用いた実験、レーザー用いた探索実験がこれまでに行われてきたが、その発見にはいまだ至っていない。 本研究では、超伝導接合(ジョセフソン接合)を用いた新手法によりアクシオン探索を行う。この手法では、アクシオン場の運動方程式とジョセフソン接合の状態方程式の類似性に注目し一種の共鳴により、アクシオン探索を行う。アクシオンが存在する場合、ジョセフソン接合のコンダクタンス、電圧曲線中でピークとして信号が確認される。これまでに一例のみ信号を確認したとの結果があるが、シャピローステップによる可能性があるため、最新実験装置による検証実験が待たれている。 本研究では、ジョセフソン接合のギャップ間隔、物質を変更し系統的に調査することにより本手法によるアクシオン探索結果について決着をつける。 平成28年度は本研究に用いるジョセフソン接合の素子を理化学研究所において製作した。今回は製作のしやすさの観点から、超伝導体物質にニオブ(Nb)、常伝導体物質にアルミニウム(Al)を用いた。 また関係分野の研究者と物理的意義、実験結果の解釈などについて議論する場を複数回設け、これまでに観測された実験結果の位置づけについて共通理解に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度はNb/Al/Nbからなるジョセフソン接合素子を製作した。この際、アクシオン探索条件を考慮し、Alの厚さを120nmになるようにパラメータ調整を行った。なお、製作の簡易性を考慮して今回は積層型で素子を作成した。積層型であるため、当初予定よりインピーダンスが非常に低く、電流の微小電流の変化の測定が難しくなるということが判明した。そのため、電流測定装置を再考し、SQUIDを用いた測定装置の設計を行った。 また、所属機関において低温実験環境の一部構築を行った。これは長期間にわたる測定を今後予定しているため、安定した実験環境を準備する必要があるためである。 また数式計算ソフトを用いて本研究の元になる理論模型の確認を行い、アクシオン探索のためのパラメータの導出を行った。 本研究は(1)素子の製作、(2)素子の電流ー電圧特性の測定、(3)長期にわたる測定の3段階で進めることを考えており、当該年度で(1)の素子製作が完了した。また(2)、(3)に向けての準備を行うことができたため、本研究の評価を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28度に作成した素子の測定を行う。5月に低温環境を構築して超伝導性を確認する。その後、微小電流の精密測定のための装置構築を行う。電流測定手法について現時点でSQUIDを用いた測定系を考えているが、非常に高価であるため、まずは、SQUIDの簡易素子であるクラーク素子を自作し、測定系のチェックを行うとともに、データ取得ソフトウェアの開発を行う。 妥当性が確認され次第、SQUIDを用いた測定システムを構築し、物理データの取得を行う。データ取得は一週間ほどで終了するため、その後はデータを解析し、結果について学会、論文等で報告する。 平成30年度は、平成29年度の測定結果によるが、もしアクシオンとみられる信号が確認された場合は、長期にわたるデータ取得を実施し、信号強度の季節変動を確認する。季節変動が確認されれば、暗黒物質である確率が高くなる。もし信号が確認されなかった場合は、製作時のパラメータを変更し、素子を再度製作する。具体的には素子間の間隙及び、物質の変更を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
アクシオン探索用素子の製作法について、製作の容易から積層型を選択したため、電流ー電圧特性の測定手法を再考する必要が生じた。実験環境の構築に想定以上の時間がかかり、測定をすることができなかった。 また、低温環境構築のための冷却水循環システムの構築が施設関係の都合により大幅に遅れたため測定開始まで至ることができなかった。 加えて、当初予算に勘定していた液体窒素などの寒剤が学内利用により安価に手に入れることが可能になったため、余剰分を次年度使用額とした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に電流ー電圧特性測定にSQUID微小電流測定システムを用いることを決定した。平成29年度はこれに基づいて装置の選別及び構築をおこなう。非常に高価なシステムであるため、まずは簡易かつ安価なクラーク素子を製作して、それを用いてデータ収集系の準備を行う。準備が完了次第、SQUID素子を購入して物理実験に必要な測定環境を整える。
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