研究実績の概要 |
近年の急速な宇宙論的観測の進展により, 通常の物質は宇宙全体の僅か4.9%のみであるのに対して, 27%もの暗黒物質が存在していることが明らかになった. それ以降, 世界中で暗黒物質の直接探索実験が加速的に進んでいる. 直接探索実験は, 弱く相互作用をする比較的重い暗黒物質(WIMP)や" アクシオン" に焦点を当てて進められて来た. しかし, 非常な努力に関わらず暗黒物質の兆候は未だ発見されていない. そのために, 最近は理論的な注目が比較的軽い(keV{MeV スケール) 暗黒物質に集まっている. そのような状況のなか,超伝導クーパー対解離を応用した新しい超伝導放射線検出器を開発し, その原理を検証するのが本研究の目的である. 我々はKID型素子を使って新しい放射線検出器の実現を目指している. 平成30年度は実績のある理化学研究所で制作した超伝導素子と東北大学西澤記念センターで制作した超伝導素子を3Heソープション冷凍機を使用して, その性能を定量的に比較した. 検出器の応答性は西澤記念センターで制作した方がすぐれる, 一方, 雑音レベルは理研の素子の方が良いことがわかった. 統合的な性能を表す雑音等価電力では, ほぼ同等であるがわずかに理研の素子がすぐれていることがわかった. また, 年度中に導入した希釈冷凍機の初期試験を行い, 24時間程度で10mK環境を実現できることを確認した. 素子の性能も3Heソープション冷凍機の300mK環境と比べて, Q値にして1桁向上することを確認することに成功した. さらに, GEANT4シミュレーションで, 前年に検出した241Amからの信号が何であるかを解明した. これらによりKID型素子を使って新しい放射線検出器の基礎特性を確認することに成功した. これは本検出器を暗黒物質探索へ使う最初の一歩であった.
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