素粒子原子核実験分野で用いられてきた動的核偏極(DNP)を用いた固体偏極ターゲットでは、標的試料に対する常磁性物質のドープが鍵となる。本研究ではこれまで主に用いられてきた、液体試料に常磁性物質を溶解する「化学的ドープ法」に対して、固体試料をナノサイズまで粉砕した微粉末試料に常磁性物質を含浸させる「メカニカルドーピング法」を試みた。これによって、従来の化学的ドープ法では利用できないと考えられてきた、溶けにくい結晶性の試料試料に対しても偏極ターゲットが実現される可能性を探る。これまでに、結晶性で融点が1000度を超えるフッ化ランタン(LaF3)を試料として選び、これを粉砕し、エタノールに常磁性物質としてフリーラディカルのTEMPOを溶解した溶液を含浸させて試料を作成し、DNPを試みた。エタノールに分散したLaF3は遊星ボールミルを用いて最小サイズ20nmまで粉砕され、100nmより大きな粒径の粒子は遠心分離により取り除いた。その後、LaF3微粉末が分散したエタノールにTEMPOを混ぜ、DNP試料を作成した。 これに0.9K、2.5Tの下で100mWの70GHz付近のマイクロ波を照射したところ、19F核(spin=1/2)の偏極度最大11%程度が得られた。この試料の場合、TEMPOと直接スピン結合するエタノール中の1H核(spin=1/2)は偏極しているはずと考えられたが、実際にその偏極度を確認したところ、およそ10%程度であり、19Fと同程度であった。 ここで、同じ環境下にある複数の核種に対して、それらの偏極度を予測するEquarl-Spin-Temerature(EST)モデルでは同程度の磁気モーメントを持つ核種はDNPによって同程度の偏極度に到達することを予言する。本試料の場合、異なる環境の核種でもこのモデルが成立していることを示しており、興味深い結果である。現在、これらの結果を論文にまとめている。
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