研究課題/領域番号 |
16K13797
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
武内 勇司 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (00375403)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超伝導体トンネル接合素子 / 極低温増幅器 / FD-SOI |
研究実績の概要 |
Fully-depleted Silicon-On-Insulator (FD-SOI) 技術によるMOSFETは,超伝導体を用いた検出器である超伝導トンネル接合素子(STJ)が動作する極低温においても動作することが確認されている.本研究は,STJのような超伝導体検出器とSOI 技術の融合によって,革新的な感度の向上や新しい概念の超伝導体検出器の創成を目指したものである. 本年度は,まずチャンネル長,幅が様々なFD-SOI-MOSFETの極低温でのゲート電圧―ドレイン電流特性,ドレイン電圧―ドレイン電流特性を測定し,極低温環境下では閾値電圧の移動,飽和電流の上昇がみられることが判明した.更に,当該年度前年に設計されたSOI試作増幅器のソープションポンプ式3He冷凍機による300mK温度下におけるテストを行った.この増幅器は,MOSFETを使ったソース接地増幅回路と後段にソースフォロワーによるバッファー回路を備えた構成になっている.室温環境下では,電圧増幅率約100倍,出力周波数帯域は,1MΩの終端抵抗と約0.5nFの容量負荷に対して約0.5MHz という性能であった.極低温環境下においても,極低温下でのFETの特性の変化に対しバイアス電圧を調節することによって,室温環境下と同等の性能を再現させることが可能であることが分かった.但し,STJの光パルスに照射に対する応答を効率よく増幅器へ伝送するためには,増幅器の入力インピーダンスが低い必要があるため,低入力インピーダンスの電荷積分型増幅器の設計をおこなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チャンネル長,幅が様々なFD-SOI-MOSFETの室温,および極低温でのゲート電圧―ドレイン電流特性,ドレイン電圧―ドレイン電流特性等を測定した.極低温環境下では閾値電圧の移動,飽和電流の上昇がみられ,ドレイン電圧の低い領域にドレイン電圧―ドレイン電流特性に非線形性が見られた.このため,通常のFETのモデルでシミュレーション用のパラメータを記述することが不可能であった.しかしながら,この異常特性は,改善方法がすでに判明しており,低入力インピーダンス電荷積分型アンプとして設計・製作されたSOIのオペアンプにはこの対処が施されている.ただし,極低温でのFETのシミュレーションは,できなかったため,このオペアンプは今のところ常温でのシミュレーションのみである.当該年度前年に設計されたソース接地増幅回路を前段とソースフォロワーによるバッファー回路を後段に備えたSOI試作増幅器が利用可能であり,ソープションポンプ式3He冷凍機による300mK温度下において,産総研で製作されたNb/Al-STJの実際の光パルス応答の読み出しテストを行い,期待されたSOI増幅器出力信号を得ることができた.これは,SOI極低温アンプによるSTJ信号増幅の初めての例であり,SOI極低温アンプの可能性を示唆する重要な結果であると考えられる. STJの多チャンネル読出し化を実現するために調査研究しているSTJをSOI基板上に直接形成する試みも継続して行っている.以上から,おおむね研究計画通りに進捗しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
SOIによるオペアンプの室温,および極低温での動作を確認後に,STJと組み合わせて冷凍機へ設置し,読出しの実証試験を行う.まずは,一光子レベルの可視光(3eV)~近赤外光(1eV)を冷凍機内部へ光ファイバーを用いて導入し,STJへ照射しエネルギー分解能を測定する.また,SOI回路の更なる最適化を行う.最適化の要素としては,低消費電力化が挙げられる.アンプの多段化,出力バッファ段の電流ドライブを信号検出のときのみスイッチング動作させる等の改良などを考えている.SOI集積化の利点を生かしたSTJの多チャンネル化についての研究も実施する.多チャンネル化の実証テストは,まず10チャンネル程度のSTJを使用し,10チャンネルの同時読出しをテストする.また,この開発段階の検出器を使用して,例えば質量が0.5GeV/c^2以下の非常に軽い暗黒物質探索なども実施して,成果を上げることを考えている.以上のように,STJの低エネルギー測定への応用についての実証試験も行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたSOI回路基板の製作依頼費が別予算で賄われ不要となり,別に必要となった計測器等を購入したが,その差額分として余剰分が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
SOI増幅回路の改良設計を行い,SOI回路基板の製作依頼を行う予定であり,そのための予算として当該助成金も使用する.また必要に応じて計測機器,電源等の購入も行う.
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