研究課題/領域番号 |
16K13798
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
浮田 尚哉 筑波大学, 計算科学研究センター, 研究員 (50422192)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超対称性 / 自発的対称性の破れ / グラディエント・フロー方程式 / エネルギー・運動量テンンソル / 格子場の理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、量子効果による超対称性の自発的破れの機構を格子場の理論を使った数値計算により明らかにすることである。超対称性の破れの有無は、真空エネルギーから決まる。破れの現象は非摂動的に現れ、その解析には従来の手計算を超えた手法が必要になる。本研究では、場の理論の非摂動的定式化である格子場の理論を用いる。特に、最近進展してきたグラディエント・フロー方程式によるエネルギー・運動量テンソルの格子上での定式化を拡張して、その構成法を超対称模型の場合に確立し、その数値計算から真空エネルギーを決定する。これにより、超対称性の自発的破れの機構を体系的に調査解明し、大統一理論や暗黒物質の起源等の超対称性の諸問題に新しい観点から攻め入る。 本研究の基礎方程式となる4次元超対称ヤン・ミルズ理論のグラディエント・フロー方程式は、菊地-大野木(平成25年)によりヴェス・ズミノゲージ固定した超場の方程式として導出された。この方程式はゲージ対称性を持つが、超対称変換(ドウィット・フリードマン流の超対称変換)で閉じず、超対称性がどのように実現できるかは未解決であった。 平成28年度の研究成果は、超対称変換のもとで、その方程式がゲージ変換のズレを除いて不変であることを示した。更に任意のゲージ固定項を付け加えてもその性質を保つこと導き、上記未解決問題に一つの答えを与えた。よって、ゲージ不変量(エネルギー・運動量テンソルなどの物理量)の超対称変換性は、その方程式に付随する任意のフロー時刻で普遍であることが分かった。この性質は、量子効果を考慮したグラディエント・フロー方程式にも期待できるので、超対称模型のエネルギー・運動量テンソルの格子上での定式化への大きな障壁を乗り越えたのである。 研究体制は、研究代表者:浮田尚哉(筑波大学)と連携研究者:加堂大輔(慶應義塾大学)で実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度の研究計画では、本研究課題の基礎方程式となる4次元超対称ヤン・ミルズ理論のグラディエント・フロー方程式がドウィット・フリードマン流の超対称変換で不変となるような補正項を探し出し、その補正項を加えた方程式を使い超対称模型のエネルギー・運動量テンソルの格子上での定式化を完了する、としていた。
研究開始時に、この方程式を超対称不変にする補正項の候補をいくつか見出していたが、どれも超対称不変にすることができなかった。原因を探るために、方程式が線形方程式となる可換ゲージ群模型で調べて見ると、超対称変換で閉じない項がゲージ変換にまとまることを見つけた。これをヒントにして、超対称ヤン・ミルズ理論の場合でも、同様に超対称変換で閉じない項がゲージへ変換にまとまることが分かった。この性質を発見するのに幾分時間を要したために、エネルギー・運動量テンソルの格子上での定式化の完成には至らなかった。よって、進捗状況をやや遅れているとした。
ただし、エネルギー・運動量テンソルの構成には、補正項なしの方程式が使用できるので、今後の計算の簡単化が見込めることを注記しておく。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の成果である、4次元超対称ヤン・ミルズ理論のグラディエント・フロー方程式がドウィット・フリードマン流の超対称変換でゲージ変換分を除いて不変になるという性質の発見は、今後の研究の基礎をなす。先ず量子効果を考慮したこの方程式が、格子場のエネルギー・運動量テンソルの構成に必要な性質を保持しているかを調べる。具体的に、有限フロー時間でのゲージ不変量への量子補正が、繰り込みを必要とせず有限となるかを見る。また、ゲージ不変量からなる超対称多重項が量子効果を考慮しても有限フロー時間で超対称多重項になっているかを確かめる。その後、超対称模型のエネルギー・運動量テンソルの格子上での構成を実行し、数値計算で超対称性の自発的破れの機構を体系的に調査解明する。 研究体制は、引き続き研究代表者:浮田尚哉(筑波大学)と連携研究者:加堂大輔(慶應義塾大学)で実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の計画では、研究課題「格子数値計算による超対称性の自発的破れの解明」の土台となる理論の定式化を完了し論文にまとめるとしていた。その資料整理の簡単化と論文作成のためにパソコンとハードディスク購入を計画していたが、目的の理論の定式化が未完のために、パソコンとハードディスクの購入を次年度に持ち越した。 よって、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の計画は、先ず理論の定式化を完了し論文にまとめる事である。そのための資料整理の簡単化と論文作成用にパソコンとハードディスクを購入する。また、連携研究者との打ち合わせのための旅費と研究成果を国内外の研究会で発表するための旅費に使用する。
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