研究課題
炭素の放射性同位体(14C)は地球外からの宇宙線によって大気中で生成される。14CはCO2となり樹木年輪へと固定されるため、年輪中の14C濃度は過去の到来宇宙線量を記録している。近年、単年分解能の14C濃度測定から、西暦775年と994年にそれぞれ1年での14C濃度急増が検出され、これらのイベントは太陽面爆発に起因する大規模なSPE(Solar Proton Event)が原因と考えられている。これまでに単年(または隔年)で14C濃度測定が行われた期間は合計すると2500年程度である。これらの期間に検出された14C急増イベントは775年と994年の2つだけである。しかし、測定誤差を小さく抑えることができれば、より小規模のイベントの検出が可能になる。観測されている太陽フレア(太陽面爆発)の発生頻度は、その規模のべき乗に従うが、この関係が我々の太陽でまだ観測されていない大規模なフレアに対しても成立するかどうかは不明である。本研究の目的は、小規模の14C増加イベントをとらえ、その発生頻度分布について明らかにすることである。本研究では、既に14Cの隔年連続データが取得されている西暦600-1000年を対象に反復測定を行うことで全ての年の誤差を1.6‰まで小さくし、5‰以上の14C濃度増加を示すイベント(775年イベントの1/3以上の規模に相当)を全て検出する。これまでに西暦626-656年の反復測定を行った。その結果、この期間に新たな小型イベントが1つ検出された。このイベントについて、今後別個体の樹木サンプルを用いた測定を行い、検証する予定である。また、反復測定による再現性を確かめるため、これまでに測定を行ってきた名古屋大学のAMSだけではなく、他のAMS(山形大学、東京大学博物館)における測定を行った。名古屋大学AMSで既に測定したセルロースサンプルについて、名古屋大学でグラファイト抽出を行い、上記AMS機関でプレス・測定を行った。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた反復測定を行い、小型イベントを検出したのに加え、異なるAMSを利用した再現性について確認を行った。
引き続き、西暦600-1000年の未測定期間について反復測定を行い、小型イベントの検出を行う予定である。また、小型イベントを検出した際、別個体樹木サンプルを用いた検証を行う。
名古屋大学の加速器質量分析計の故障により、測定予定の試料を測定できなかった。
次年度に測定予定であった試料を測定する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
Sci. Rep.
巻: 7 ページ: 印刷中
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