炭素の放射性同位体である14Cは地球外からの宇宙線によって生成される。14CはCO2となり樹木へと取り込まれるため、年輪中の14C濃度は過去の宇宙線強度を記録している。これまでに年輪の14Cを用いて、複数の単年14C増加イベント(775年イベント、994年イベントなど)の痕跡が見つかっており、その原因は大規模なSolar Proton Event(SPE)と考えられている。これまでに、申請者らによって6-12世紀の単年14C濃度データが取得されているが、データの誤差は平均して2.2‰であり、上記2イベントを除いて小型の14C増加イベントは検出されていない。本研究は、この期間における屋久杉年輪の14C濃度測定を追加で行い、データを高精度化(誤差~1.6‰)し、変動の小さい宇宙線増加イベントをとらえることが目的である。 今年度は、予定していた年代における追加測定をすべて実施した。先行研究で得られていたデータに対して再現性のある結果が得られた一方で、小さな増加が期待された年代において、その増加量は誤差に対して有意なものとは言えないことが判明した。得られたデータに対して、宇宙線イベントの検出で定義した([連続する2点間の差]/[測定誤差] ≧ 3.0)を満たす年代は上記2イベントを除くと1つだけであった。この検出された期間の14C変動は、通常の宇宙線イベントとは異なる変動を示すため、今後より詳細な分析が必要である。6-12世紀において、確実に宇宙線イベントが検出された年代は依然として2イベントであることが明らかになった。
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