中性子電気双極子能率(EDM)の探索は、素粒子標準模型を超える物理の検証に重要な役割を果たす。結晶内に存在する電場と熱中性子ビームを用いたEDM探索は超冷中性子を蓄積する方法と同程度の感度を持ち、異なる系統誤差を持つ検証実験として重要である。測定には非中心対称性結晶の内部に潜在的に存在する電場を利用するため、電場の大きな結晶を選定し、実際にその大きさを測定する必要がある。本年は、結晶内電場測定手法の基礎である、ペンデル干渉の測定を行った。ペンデル干渉は単結晶の動力学的回折の結果、試料の厚さに応じて波動の透過強度が振動する現象で、その周期は原子核の散乱断面積や結晶構造を反映している。これは回折する波長に依存するので、J-PARCパルス中性子ビームを用いると、結晶の格子定数に対応した波長の中性子に対してペンデル干渉が観測されることになる。昨年度の研究から最適化した実験セットアップをJ-PARCのビームライン17に構築しペンデル縞観測を試みた結果、シリコン単結晶を用いて明瞭なペンデル縞を観測することに成功した。干渉縞から求めたシリコンの散乱長は文献値と高い精度で一致している。これはパルス中性子ビームを用いた初めての測定である。現在この成果を論文にまとめており、まもなく投稿予定である。 次にEDM測定に必要な結晶内部の電場の測定にむけて、偏極中性子ビームを用いた実験セットアップを構築した。非中心対称性結晶であるSiO2やBGO結晶を用いて電場測定実験を開始した。これまでのところペンデル縞のコントラストは小さいが、詳細な解析やセットアップの最適化を行なっている。
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