研究課題/領域番号 |
16K13807
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
越智 敦彦 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (40335419)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / 粒子測定技術 / MPGD / ガス放射線検出器 / RPC / ピコ秒 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、炭素スパッタによるダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜を用いて、ガス中でマイクロギャップの抵抗を積層させることにより、ピコ秒レベルの時間分解能を持つ測定器開発を目指す。研究初年度となる平成28年度は、本研究アイディアの基本的な動作検証を行うために、(a)小型のRPC型の平行平板検出器を炭素スパッタ技術により試作、(b) MicroWELL検出器を炭素スパッタ技術により試作(イタリアFrascatti 研究所との共同研究)の2面において、開発研究を行った。 (a) 小型RPCの開発: 絶縁性に優れたポリイミドの薄膜の片面に炭素スパッタによる抵抗層を形成したものを2層用意し、リソグラフィ技術によりこの2層の間隔を100μmに保つための柱をドライレジストにより形成する手法で、単層の小型RPCを試作した。動作試験として、アルゴンベースのガス中で二層の炭素スパッタ層の間に500V程度の電圧をかけ、β線を入射したところ、誘起電荷として十分な大きさの信号を得ることができた。これらのことから、この構造によって、ガス増幅器として動作することが検証できた。 (b) MicroWELL検出器の共同開発: 高速読出しが可能な検出器のもう一つの可能性として、イタリアのFrascatti 研究所との共同で、大型のMicroWELL検出器の開発を行っている。我々の担当する開発項目としては、炭素スパッタにより大型(50cm×120cm)の抵抗電極をポリイミドフィルム上に形成することが挙げられる。しかし当初は目的とする表面抵抗率(約100MΩ/□)を安定に形成することができず、試作の度に大きく目標抵抗率を外したものが作られ、多面的にこの理由を探った。この結果、吸湿性を持つポリイミドの水分量が関係していることを突き止め、スパッタの前にポリイミド薄膜を十分高温で乾燥させることにより、再現性のある安定した抵抗率をコントロールできるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題研究の今年度前半では単層のRPCライクな平行平板ガス検出器を、炭素スパッタ技術により実現する予定としており、実際にこれは試作に成功して動作検証も行うことができた。一方で複数層の平行平板検出器の構築については、技術的な問題点がまだ残っており、素材となる両面スパッタによる薄膜電極は既に製作してあるものの組立及び動作試験には至っていない。一方で、これまで炭素スパッタによる電極の抵抗値の再現性を阻害する不定性を与えていた原因について、MicroWELLの開発の過程で発見することができた。これは、今後DLCを電極として用いるMPGDが増えることを考えると、検出器開発上のかなり大きな進歩である。 以上の理由から、本研究計画は全体としてはおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
RPCライクな平行平板ガス検出器については、今後積層させるための技術的な問題点をクリアし、2層、3層、多層と信号検出領域を大きくする方針である。また、実際にピコ秒レベルの信号が読み出せているか判断するためには、高速のエレクトロニクスが必要となるが、このための設備を本研究課題による予算で購入することは非常に難しいため、MPGDの国際コラボレーションであるRD51 との共同研究により、CERNにあるRD51ラボの施設を利用することで解決する。このための現地研究所との連絡調整は既に始めている。特に本課題の代表者の越智は平成29年度秋より1年間の予定でCERNへの滞在を予定しており、この機会を使って高速読出しのための施設や、各種ビーム試験を効率的に行う予定である。またMicroWELL型検出器の開発の方も、DLC薄膜の安定化、及び金属スパッタの積層化など新しい技術との組み合わせを試していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の使用額は、ほぼ当初の予定通りであった。次年度使用額が 66円だけ生じたが、これは物品の購入額などが当初想定より若干安かったためなどの理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の直接経費予算 150万円に対して今年度から積み残された使用額66円は、僅か0.004%であり、基本的にはこれを含んだ経費の使用計画に変更はない。
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