本研究課題では、炭素スパッタによるダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜を用いて、ガス中でマイクロギャップの抵抗を積層させることにより、ピコ秒レベルの時間分解能を持つ測定器開発を目指す。研究2年目となる平成29年度は、本研究アイディアの基本的な動作検証を行うために、炭素スパッタを用いた小型のRPC型の平行平板検出器試作機の積層化と性能評価を行った。 ガス検出器で高時間分解能を持たせるために、本研究では陽極と陰極の間隔が非常に狭い(100μm)超薄間隔RPCを開発している。昨年度は、ポリイミド薄膜の片面のみ抵抗電極を形成し、単層のRPC型検出器を試作したが、原理的に単層だけでは非常に検出効率が悪くなる。そこで今年度は、ポリイミド薄膜の両面に炭素スパッタ電極を形成することにより、複数層積層させた検出器を試作した。動作試験では3層までの積層検出器の動作を成功させ、単層の場合のほぼ3倍の粒子線に対する検出効率を実現できることを確認した。 時間分解能については、非常に高価な高速エレクトロニクスが必要であることから、CERNにてこの試験を行った。しかし、薄ギャップの検出器であるために、十分に大きな信号を出すことが難しく、得られた時間分解能としては、数ナノ秒程度と、元の目標であるピコ秒レベルには遠く届かなかった。今後の改善点としては、より大きな信号を得るための電極間ギャップ調整、ガススタディ、及び低ノイズの高速アンプの開発が必要になるものと思われる。 なお、本研究では目的とする超高速の時間分解能は得られなかったものの、ポリイミド薄膜とDLC電極による本検出器の構造により、原理的に超低物質量粒子線カウンターが実現可能である。現在では本開発成果を用いて、μ->eγ稀崩壊実験のRadiative decay counter の開発が新たに検討されるなど、別方面の応用への発展が期待されている。
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