本研究は、J-PARCミュオン実験施設で得られる大強度ミュオンビームを生かして、ミュオニウム(正ミュオン―電子対)-反ミュオニウム(負ミュオン―陽電子対)振動の観測により、素粒子標準理論を超えた新物理の探索を目指す全く新たな実験手法の原理実証を目的とする。この手法は従来の手法と比べ、正ミュオンのベータ崩壊で生じる陽電子のバーバ散乱バックグラウンドが抑制されるため、圧倒的な低バックグラウンドの観測が可能となる。 原理実証を目指す手法では大強度レーザーにより反ミュオニウムを電離し、負ミュオンを直接観測する。しかし本研究では準備に多大な時間と資源を要するレーザーを用いず、即ち反ミュオニウムが生成されても負ミュオンを電離して検出器まで到達しない状態をつくる。この状態でバックグラウンドを測定、そのレベルが十分に低く、従来の実験感度を超えることが可能であることを証明した。 電離後の負ミュオンを輸送する分光器(静止状態のミュオンを静電加速し引き出すことができるビームライン)をJ-PARCミュオン実験施設に設置、バックグランドの観測を行った。ミュオニウム生成標的(エアロゲル)によりミュオニウムを生成し、ビームライン下流に設置したMCP検出器で粒子を捉える。ビームラインにはmagnetic bendとelectric bendの両方をもちいることで粒子を分別、さらにMCPの周囲をシンチレータで囲み、飛来したミュオンの崩壊に伴う電子を検出することで、偶然一致によるバックグラウンドの抑制にも成功した。実際の物理測定の際の1/100程度の測定時間ではバックグラウンドフリーであることが証明された。また、従来、想定されていたなかったバックグランド源として、ビームライン等の金属部品にミュオンが入射して作られるミュオニウムイオンも定量的に確認され、その抑制の方法も検討された。
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