本研究のねらいは、超広帯域のコヒーレントな電磁波を用いた物質の様々な自由度のコヒーレント励起により、通常は不可能な縮退した論理量子を幾何学的に制御することであった。光子と物質の様々な量子の幾何学的な量子状態を、物質に内在する量子もつれの力とデジタルコヒーレント制御技術の協力で一括して自由自在に制御することを目標とした。 物質系としてダイヤモンド中のドーパンドである単一窒素原子の色中心(NV中心)を用いた。磁場を完全に排除することで縮退したスピン部分系を論理的量子として用い、超広帯域のコヒーレントな電磁波で幾何学的量子制御を行った。このような縮退環境では、光波帯の光子、マイクロ波帯の光子、ラジオ波帯の光子が電子の軌道、電子のスピン、核子のスピンとそれぞれ等価なV型の幾何学的量子構造を有する。物質内の軌道スピン相互作用、超微細相互作用という物質に内在する異種量子間の相互作用を媒介とし、コヒーレントな電磁波によるスピンの幾何学的量子操作を行った。さらに、光子を媒介としたスピン間の自発的な量子もつれの形成にも挑戦した。 本研究で得られた主な成果は以下である。 1.縮退した幾何学的量子構造の構築(磁場を完全に排除し、ダイヤモンド中のNV中心に捕獲された電子の軌道、スピンならびにNVを構成する窒素の核子スピンの縮退した幾何学的構造を形成した。) 2.直交偏光アップコンバージョン法の構築(IQ変調により電子軌道、電子スピン、核スピンのコヒーレント制御を可能とした。) 3.光波およびマイクロ波による電子スピン縮退論理キュービットの幾何学的量子操作(光波、マイクロ波、ラジオ波の偏光を用いることにより、縮退した幾何学的量子の任意軸かつ任意角の単一量子ゲート操作並びに二量子ゲート操作を可能とした。)
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