研究実績の概要 |
鉄砒化物(FeAsを超伝導層とする物質)超伝導体は、2008年に東工大・細野グループにより発見され、発見からわずか二ヶ月でTcの最高値が56Kにまで達した。一方、東工大グループの報告直後に、台湾のWuらによって、鉄カルコゲン化物Fe(Se,Te)でも超伝導が発見された。この物質は電荷中性のFe(Se,Te)がファンデルワールス力によって積層している。古くから知られる物質だが、Feを含むために超伝導性は調べられていなかった。当初、Fe(Se,Te)のTcは高々15Kと考えられていた。2012年に、中国グループからSrTiO3基板上に分子線エピタキシー(MBE)成長した単原子層FeSe膜で、Tcが77Kに達するという報告がなされた。この状況の中で、本研究はMBE法によりFeSe単原子層膜を成長し、液体窒素温度を超えるTcを目指した。 平成28年度に鉄・セレン・テルルの3元素を同時蒸着可能な簡易MBE装置の制作を行い、単原子~数原子層のFeSe膜は作製を試みた。作製はボトムアップおよびトップダウンの2通りの手法で行った。ボトムアップ法では最初から極薄膜を成長するのに対し、トップダウン法では50 nm程度の薄膜をイオン液体を用いたエッチングにより極薄膜化する。現在までに、前者の方法では超伝導薄膜が得られていないが、後者の方法で、サファイア(Al2O3)基板上の数原子層薄膜がTc~50 K示すことを見出している。中国グループは高Tc薄膜の実現にはSrTiO3基板が必須としているが、我々の結果はこの中国グループの主張と相容れない。FeSeとSrTiO3界面での界面超伝導の可能性は低く、FeSeが本来的に高いTcのポテンシャルを持つことが示唆される。
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