炭素のダイヤモンド型カゴ型クラスターを骨格にもち、酸素の末端が水素で終端された化合物群「ダイヤ分子」は、ダイヤモンドの優れた物理的性質、熱的特性、機械的特性を受け継ぎつつ、ナノのサイズや特徴的な形状、高い対称性に起因する新奇物性を発現する有力なナノテク新素材である。本研究では、ダイヤ分子における終端水素を化学的修飾して双極子モーメントを導入する戦略に基づき、ダイヤ分子の高機能化について理論計算および実験検証の双方から検討を行った。具体的には、ダイヤ基礎ブロック数や置換基の位置・大きさ、異種分子混合などの自由度を利用して、分子楕円性、回転障壁、双極子モーメント(大きさ・方向・相互作用)の効果を理解し、更に設計・制御する指針を得ることを目的とした。 ダイヤ骨格が2つまでのダイヤ分子をハロゲン化およびケトン化した場合について、第一原理計算を用いた理論計算科学的な検討を行うことで、双極子モーメントや分子振動などの諸物性の系統的な予想を行った。市販されていない6種類の極性ダイヤ分子の合成と精製、更には単結晶試料化することにも成功し、理論予測された分子振動の実験実証ができた。 合成した試料を用いて、誘電率の温度依存性の評価を進めたところ、結晶中の分子回転に起因する転移を反映した急峻な変化(誘電異常)を発見した。置換基の種類や分子楕円率に依存して変化する分子の回転障壁により、異常の生ずる温度を定性的に説明できる実験データを蓄積することもできた。 単一分子および純物質の結晶状態における特性のほぼ全容が解明できたことから、異種のダイヤ分子を固溶させた合金的な系についての誘電特性も実験を進めた。極性と無極性のダイヤ分子の固溶系において、ダイポールグラスやリラクサー的な挙動をもつ誘電特性を発見し、双極子モーメントの多体効果で生じた新たな誘電相の可能性について議論することも出来た。
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