研究課題/領域番号 |
16K13834
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
村上 修一 東京工業大学, 理学院, 教授 (30282685)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 物性理論 / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
本年度は以下の2項目について研究を行った。第一に、空間反転対称性の破れた結晶でのカイラル伝導について考察した。らせん状の系では結晶構造が右巻きないし左巻きとなり、古典的なソレノイドとの類推から、結晶の巻き方によって、電流を流すとそれと平行ないし反平行に磁化が生じると我々は以前予言し、カイラル伝導と呼んでいる。こうした電流誘起軌道磁化について、平成29年度は、以前までのらせん構造を持つ結晶から、対象となる結晶系を広げる研究を行っている。対称性からは空間反転対称性が破れていればよいので、極性金属を例にとりその性質を考察した。簡単な模型として2種類の2次元正方格子を交互に積層し、隣接した層間に飛び移り積分を設定して簡単な極性金属の模型を作り、電流誘起軌道磁化がどのような起源でどのように出現するかを調べた。その結果、対称性からも分かるとおり、極性のベクトルと電流と誘起される軌道磁化の3つのベクトルは全て互いに垂直であることを見いだした。さらに面間のホッピングが面内ホッピングに比べて非常に小さい場合に、面間ホッピングを摂動として電流誘起軌道磁化を計算し、面間に形成される環状電流が軌道磁化の起源であることを確認した。第二に、カイラル伝導で考えたような電流誘起磁化と類似の現象が、他の粒子系で見られるかを考察した。その例としてフォノンについて、空間反転対称性の破れた結晶に熱流を流すとフォノン角運動量が誘起されることを理論的に提案した。簡単な模型についてこうした現象が出ることを確かめた後、極性のある結晶であるGaNと、カイラルな結晶であるTeのそれぞれについて、フォノンの分散と各フォノンモードでの角運動量を計算し、熱流を流したときにフォノン角運動量が生じることを見いだした。さらにその方向とその大きさを計算し、実験でも十分確認できうる大きさを持つことを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度に、電流誘起軌道磁化がカイラル結晶に限らず、極性金属など空間反転対称性の破れたさまざまな結晶構造で普遍的に見られることを見いだした。これは、電流誘起軌道磁化が広い範囲の物質で見られる可能性があることを示しており、模型を用いた理論計算、候補物質の第一原理計算による探索など、今後の実験・理論研究に大きな波及効果をもたらすものである。また熱流誘起フォノン角運動量については、質的に新しい理論的予言であり、今後のさまざまな手法での実験での観測に向けて、第一原理計算研究や理論研究などにおける今後の発展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
極性金属での電流誘起軌道磁化の研究は簡単な模型を用いたもので実際の物質との関係は明らかでなかった。そこで第一原理計算研究者とも協力し、実際の物質に近い形での計算を試みる。極性金属は近年盛んに研究されており、対象となる物質の幅は広く、その中で実験や計算に便利な物質を選んで研究を行う。また電流誘起の物理的な理解をさらに深めることも必要であり、簡単な模型を用いて軌道磁化がどのように生じるかについて、半古典的な手法で考察する。また熱流誘起フォノン角運動量については、フォノン角運動量の物理的性質や、角運動量がフォノンから結晶の剛体回転へ移される仕組み、角運動量の保存が現実の実験の設定でどのように満たされるか等、基礎的な問題の理解が不十分なため、理論の構築を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進展に伴い、第一原理計算による物質探索をより強力に推進する必要が出てきたため、そうした研究内容に関する研究打ち合わせや成果発表を次年度に行う予算を確保することとなった。
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