本研究を通じて、らせん対称性を持つ結晶のカイラル伝導の研究を行い、ソレノイドと同様に、軸方向に電流を流すと軌道磁化が生じる現象の理論を構築してきた。最終年度は特にこの現象の対象を広げる研究を行っている。特に極性を持つ系、例えば3次元極性金属、空間反転対称性の破れた2次元薄膜、絶縁体の界面・表面の2次元金属などについて、模型を構築して、電流誘起軌道磁化の計算とその物理的解釈の理論を構築した。 極性金属に関しては、簡単な強束縛模型を作って確かに電流誘起軌道磁化が生じることを確かめ、物質の例としてSnPについては第一原理計算に基づく計算を行い、軌道磁化が十分観測可能な大きさであろうという結果を得た。なお対称性から、極性方向に対して垂直に電流を流すと、極性方向と電流の双方に垂直方向に磁化が生じると予想され、計算結果もそれと一致している。さらに電気回路とのアナロジーを用いて、この現象が物質中での環状電流形成によることを、摂動論等を用いて示した。 また2次元系については、先行研究の範囲で面内方向の軌道磁化を計算する手法が存在しないため、計算手法を開発して計算を行った。ここで用いた手法は、2次元系を仮想的に重層して3次元系として3次元系とみなして計算する方法であり、この手法を用いて2次元系での面内軌道磁化の公式を得た。さらに2次元薄膜や絶縁体表面の強束縛模型を作って電流誘起軌道磁化の計算を行い、物理的性質を解析した。こうした計算手法は2次元原子層強磁性体の磁化の計算や、またLaAlO3/SrTiO3界面など絶縁体の界面での電流誘起軌道磁化の計算へと広く応用できる。 なお本研究と関連してフォノンの角運動量についても並行し研究を行っており、熱流をカイラル結晶に流すことでフォノン角運動量が誘起される現象や、マルチフェロイック物質に電場を印加することでフォノン角運動量が誘起される現象を予言した。
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