今日の凝縮系物理学において、物質の電子状態/磁気状態を如実に反映する磁化や磁化率の高精度測定は必要不可欠な実験技術である。本研究では、次世代の高感度磁気トルク測定システムの構築を行ない、更に、これを強相関電子系物質における電子状態解明へと展開することを目的としている。 本年度は、新型のピエゾ抵抗式カンチレバーのテスト測定を行なうとともに、正方晶構造を有する銅酸化物超伝導体であるHg1201系において、高感度磁気トルク測定の系統的な測定に取り組んだ。新型カンチレバーについては、従来のピエゾ抵抗式測定とは異なり、カンチレバーを構成する基板上に抵抗ブリッジ回路が組み込まれた設計となっており、簡便に測定が行えるとともに、良好な感度を持つことを確認した。またHg1201においては、高圧酸素雰囲気下において試料をアニールすることで、系統的に酸素量を制御した試料の測定を進め、ネマティック転移の系統的な変化を調べた。特に注目する点として、Hg1201ではCu-O-Cuのボンド方向から45度傾いたB2g対称性をもったネマティシティが発達しており、これは、これまでにYBa2Cu3O6+dで観測されているB1g対称性をもったボンド方向へのネマティシティとは明確に異なるものであることが明らかになった。更にHg1201では低温で電荷密度波状態が形成されるに伴って、ネマティシティの発達が抑制される振る舞いが見られた。これは擬ギャップ状態と電荷密度波が競合関係にあることを示しており、擬ギャップ状態の起源が電荷密度波のそれとは異なることを示唆する。一連の結果は、擬ギャップ状態の微視的起源を明らかにする上で極めて重要な結果と考えられる。
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