研究課題/領域番号 |
16K13839
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
井野 明洋 広島大学, 放射光科学研究センター, 特任准教授 (60363040)
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研究分担者 |
島田 賢也 広島大学, 放射光科学研究センター, 教授 (10284225)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 角度分解光電子分光 / 偏光依存性マッピング / 紫外線レーザー |
研究実績の概要 |
多秩序系物質で展開される複雑な相転移現象を左右する急所として、位相欠陥が注目されています。二準位混成波動関数に位相欠陥が生じると、それが秩序変数の消失点となり、エネルギー・ギャップにノードが出現します。本課題では、多秩序系における位相欠陥を実験的に解明するため、偏光依存放射光角度分解光電子分光法を発展させ、波数空間における電子軌道テクスチャを観測する手法の開発に取り組んでいます。 当該年度は、レーザー励起超高分解能角度分解光電子分光装置の偏光制御の高度化を進めました。偏光板にモーター駆動機構を設置するとともに、偏光制御ソフトを開発して光電子スペクトル測定ソフトと統合し、偏光依存性を自動的にマッピングする体制を実現しました。本課題が目標とする「偏光依存性と波数依存性の同時マッピング」を試みたところ、数十μm程度の試料位置の変動が致命的な問題となることが判明しました。そこで、マッピング中におけるμm単位の試料位置の変動を予測して補正するソフトの開発に取り組みました。 レーザー励起光電子分光装置の高度化の進展を踏まえ、二重層銅酸化物高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+δの結合バンドと反結合バンドの光電子強度分布の偏光依存性のマッピング測定を、幅広い波数領域で展開しました。そして、波数空間においてエネルギー・ギャップのノードから離れるとともに、偶対称な遷移と奇対称な遷移が混じる様子を明らかにしました。 また、放射光を用いて励起光エネルギーの違いが偏光依存性に及ぼす効果を調べ、第一原理計算による占有および非占有状態のバンド構造との比較を行いました。そして、バンド選択的な電子状態測定に適した実験条件を決定しました。これらの知見は、CuO2面の重層化と高温超伝導現象の関係を調べる手段を提供します。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レーザー励起角度分解光電子分光装置の偏光制御の高度化により、超高分解能かつバルク敏感な軌道成分観測体制の整備が進展しました。 偏光依存性と波数依存性の同時マッピングにおいては、当初予期していなかった課題が発生しましたが、試料位置制御の予測補正ソフトの開発によって、試料位置の変動を実用的な水準に押さえ込むことができました。マッピングの高精度化と自動化の実現により、今後の実験で得られるデータは、質と量の両面で大きく改善されるものと予想されます。 その結果として、二重層銅酸化物高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+δの偏光依存性と波数依存性に関する大規模四次元データが集積されたため、光電子遷移の始状態および終状態の波動関数についての理解が飛躍的に進展しました。
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今後の研究の推進方策 |
次は最終年度なので、実験装置の調整と最適化を速やかに行って、なるべく多くの物質系について偏光依存性および波数依存性のマッピングを実施することで、多秩序系の軌道テクスチャの知見を蓄積する方針です。 まず、実験データの品質が、主に試料位置制御の精度に依存していることが判明したため、網羅的な動作試験を実施することで、補正ソフトの最適パラメータを特定し、試料位置の選別追尾機能を数μmの精度に高めることを狙います。そして、鉄セレン系、銅酸化物系、リン系の層状超伝導物質など、近年注目を集めている物質系を対象に、光電子スペクトル強度の偏光依存性および波数依存性の実験データを系統的に収集します。多様な物質系における実験データの解析と、第一原理計算との比較の経験を積み重ねることで、軌道テクスチャを研究する手法を確立することを目標とします。並行して、本課題によって得られた知見を取りまとめて、国内外に発信します。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料ホルダなど、実験消耗品の損耗を当初の見込みより低く抑えることができたため、当該年度の見込額と執行額に違いが生じましたが、研究計画に大きな変更はありません。次年度に消耗品をまとめて発注することで、単価を抑制し、より多くの実験の実施を可能にする予定です。
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