研究実績の概要 |
昨年度の研究成果である、Fe(Se,Te)単結晶への微細加工による微小ブリッジの作製と電気化学的手法による超伝導特性の改善に関して投稿論文を執筆し、研究期間内に論文発表することができた。また、集束イオンビームを用いて微小接合部を作製したFe(Se,Te)単結晶に対して、電気化学的アプローチによる過剰鉄の除去(デインターカレーション)を行い、固有ジョセフソン接合的な挙動の変化を調べた。その結果、昨年度の研究成果と同様に、電気化学反応時間と共に超伝導転移温度が上昇することに加え、微小接合部の電流電圧特性に現れるヒステリシス挙動が電気化学反応時間の増大と共に拡大することが新たに判明した。本研究開始以前に得られていた予備的実験結果と比較すると、過剰鉄が完全に消失する極限でもこのヒステリシス挙動が残る可能性が強く示唆された。これは、鉄カルコゲナイド四面体超伝導層が単純に積層したFe(Se,Te)単結晶においても固有ジョセフソン接合系が形成されることを意味しており、今後、過剰鉄のより少ない単結晶試料の電気化学実験によって実証できるとの見通しを得た。さらに、鉄カルコゲナイド単結晶の層間制御に向け、超伝導層間にスペーサー分子を挿入する技術として、水熱合成を用いたイオン交換によって得られるLi1-xFex(OH)FeSe単結晶の作製に挑んだ。帯磁率測定から超伝導特性を評価し、超伝導転移温度が30K以上になることを確認したが、スペーサー分子に含まれるアルカリ金属イオンの継時劣化の影響により、ゼロ抵抗状態の観測には至らなかった。 本研究の実施により、鉄カルコゲナイド単結晶への微細加工と電気化学的アプローチが、チューナブル超伝導デバイスの創製に極めて有効な手段であることが実証された。
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