研究課題
本研究では、反強磁性体中のマグノンを、スピン角運動量の流れであるスピン流の伝送媒体として活用することを目指している。前年度までの研究で、スピンゼーベック効果の観測を介して、熱的に励起された反強磁性マグノンがスピン流の担い手になれることを実験的に明らかにした。一方で、熱的なプロセスはあらゆる波数・エネルギーのマグノンをボーズ分布に従って励起してしまうため、現象のより深い理解のため、今年度は磁気共鳴を介したコヒーレントな反強磁性マグノンによるスピン流生成を試みた。具体的には、GHz帯の低い共鳴周波数を持つ反強磁性体RbMnF3の単結晶を作成し、白金との接合系で磁気共鳴を起こすことによって白金側にスピン流を注入し、それを電流に変換して検出する手法(スピンポンピング)を用いた。その結果、実際に磁気共鳴に伴う電流の生成を確認することができたものの、この電流成分は基本的に磁場反転に対して偶な振る舞いを示しており、ほぼ熱起電力を起源としていることがわかった。反強磁性共鳴は、磁化の小ささを反映してマイクロ波の入力に対する励起強度が弱いため、これが検出を難しくしている可能性がある。このため、異なるアプローチの実験として、RbMnF3に対してスピン波分光測定を行い、反強磁性マグノンの実空間における伝搬特性の直接評価を行った。この結果、反強磁性体中のマグノンが少なくとも数百マイクロメートルの距離にわたってコヒーレントに伝搬できることが明らかになった。上記の結果は、反強磁性マグノンが強磁性マグノンと遜色のない情報伝搬特性を備えていることを示唆している。
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Physical Review Letters
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