研究課題/領域番号 |
16K13843
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
清水 幸弘 東北大学, 工学研究科, 准教授 (70250727)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テンソルネットワーク / 強結合模型 / 触媒 / 電子状態計算 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、貴金属触媒の代替材料候補の1つである遷移金属化合物における触媒機能のメカニズムを、電子状態研究に基づいて解明することである。特に、遷移金属化合物のd電子の電子相関効果が、触媒の機能の優劣に如何に関与するかを解明する。 平成28年度においては、この研究目的を達成するための最初のステップとして、2つの研究を実施した。1つは、自動車排気ガスに含まれる窒素酸化物( NO)と一酸化炭素(CO)が、触媒表面に吸着して化学反応する浄化プロセスの電子状態研究である。もう1つは、電子状態計算に電子相関効果を取り入れるためにテンソルネットワークの方法をハバード模型に用いる計算機プログラムの開発を行った。以下に研究成果を記す。 ロジウム(Rh)表面におけるNO-CO反応の律速段階を調べ、NOの乖離吸着過程の遷移状態の電子状態を第一原理計算手法により求めた。遷移状態における局所状態密度と電荷分布の解析を行い、遷移状態への励起エネルギーの低下に有効な機構が解った。Rhは、自動車排気ガス浄化触媒の三元触媒として実用化されている。本年度研究したRh表面におけるNO-CO反応が、NO-CO反応のプロトタイプとなる。代替材料表面における遷移状態の計算結果を検討するための指針が得られた。 テンソルネットワーク手法の1つであるMERAを用いて、1次元ハバード模型の基底状態と低エネルギー励起状態を同定する数値計算プログラムを開発した。電子相関が大きい場合には、基底状態エネルギーがベーテ仮説による厳密解と良い一致を示した。2次元ハバードモデルにMERAの手法を用いるためのプログラム開発に必要となる十分な知見を得ることができ、触媒表面における強結合模型にMERAを用いる研究に資する成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的を達成するための研究計画を簡潔に記す。(1)貴金属触媒における自動車排気ガス浄化の化学反応を電子論的に解明し、局所密度近似による電子状態計算結果と化学反応速度との関係を明らかにする。(2)その知見に基づき、代替材料の遷移金属化合物の電子状態計算結果から化学反応速度を予測する。(3)局所密度近似による電子状態計算結果に基づいた強結合モデルを構築し、電子相関効果を取り入れた模型を構築する。(4)テンソルネットワーク手法の1つであるMERAの方法を1次元ハバード模型に用いる数値計算プログラムを開発する。(5)2次元ハバード模型にMERAの方法を拡張する。(6)上記の(3)で構築した強結合模型にMERAの方法を適用し、電子相関効果が、触媒の機能の優劣に如何に関与するかを解明する。 初年度の研究において、上記の(1)と(4)を完了し、(2)の研究の一部を実施した。MERAの方法をハバード模型に適用し、数百サイトの系においても安定してMERAの変分波動関数を同定する手法の開発に成功した。それゆえに、研究計画は、おおむね順調に進展している、と自己評価をした。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況の理由に記した(2)と(5)の研究を実施予定である。(2)の研究においては、鉄、ニッケル、銅の酸化物にキャリアをドープした系の電子状態計算を局所密度近似による実施する。ナッジド・エラスティック・バンド(NEB)法により化学反応の遷移状態を求め、遷移状態の励起エネルギー、局所状態密度、電荷分布の解析を行い、貴金属代替触媒の候補の絞り込みを行う。(5)の研究においては、平成28年度に開発した1次元ハバード模型のためのMERAコードを2次元ハバード模型に拡張する。数値計算コード拡張におけるキーポイントは、MERAのスーパーオペレータ計算の高速化である。並列計算コードを開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の研究では、触媒表面上の化学反応のプロトタイプとしてロジウム表面におけるCO-NO反応の第一原理計算結果の解析を行った。この計算は小さなスーパーセルを用いた計算により物性値を評価することができたので、現有の計算機環境で研究を実施することができた。また、1次元ハバード模型におけるMERAコードの開発においては、安定してMERAの変分波動関数を同定するために、少数サイトの系を用いてプログラムコードの改良を繰り返したので、この研究においても現有の計算機環境を用いることができた。今後の研究計画の実施のために必要となる計算機資源の評価を済ませてから、計算機設備の増強を実施することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度以降の第一原理計算結果においては、キャリアをドープした化合物を表面とするために、大きなスーパーセルが必要であり、計算機設備の増強が必要である。また、MERAの計算機プログラムの2次元系への拡張においても、現有の計算機より多数のCPUコアによる並列計算が必須であり、平成29年度において計算機設備を増強する。
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