研究課題/領域番号 |
16K13845
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
初貝 安弘 筑波大学, 数理物質系, 教授 (80218495)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 時間反転対称性 / 四元数 / 電子間相互作用 / 磁場 / 擬ポテンシャル / エンタングルメント / 平坦バンド |
研究実績の概要 |
時間反転不変な系の一粒子ハミルトニアンは四元数により表示されることはよく知られていて,その固有状態はクラマース縮退するが,申請者の発案によるとクラマース縮退した2状態は四元数表示のひとつの状態で表示される。本研究においてはこのアイデアを基礎に多体効果と時間反転対称性の破れを議論するものである。今年度も研究初年度に引き続き,最終年度に向けて基礎的な理論の整備と多体効果を議論するための数値計算手法の確立を目指す研究をおこなった。具体的には(1)時間反転不変な系でのトポロジカル相の研究には四元数を用いたベリー接続の表式が有用であるが,本年度は特にその射影演算子による表式に関して,その基礎的な理論的枠組みを議論した。(2)電子相関の効果を取り込んだ大規模な計算を行う準備として昨年度に引き続き少数スピンの系に関してクラマース縮退した系のトポロジカル量の数値的取り扱いに関して準備的な計算を遂行した。(3)相互作用の効果は平坦バンド系においては電子間相互作用が唯一のエネルギースケールとなるため時間反転対称な平坦バンド系は本研究においては特に重要な系となる。この立場から平坦バンド系に関する我々の一般論を時間反転対称な系に拡張する試みを行った。(4)平坦バンド等,特定の一粒子バンドに射影して電子相関を議論することは,必要なヒルベルト空間の次元を縮小化するために極めて重要である。この視点から時間反転対称性はまだ取り込めていないがバンドに射影した擬ポテンシャルを格子上で構成し新しい量子相転移を見いだして,その結果を公表した。(5)3次元の時間反転対称な系は波数ごとには特殊な波数を除いて時間反転対称性は破れる。この観点からこれも独自のエンタングルメントチャーン数と呼ばれる量子数を3次元波数空間内2次元平面に対して定義し,トポロジカル絶縁体における意義を議論した。この成果も本年度論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時間反転対称な3次元系は波数に分解したとき特定の波数以外では時間反転対称性が破れた2次元平面(セクション)の集まりと見なせる。この立場から2次元セクションごとのトポロジカル数を定義し,その物理的意義をあきらかとした。また電子相関を正確にとりあつかうために格子上の擬ポテンシャル構成は必須であるが,本年度はスピンまではまだ取り込めていないが擬ポテンシャルを構築することで新しいトポロジカルな相転移を見いだしその結果を公表することができたので,研究の総体としてはおよそ順調に研究は進んでいると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度まで準備的な研究は順調に進展してきたので,最終年度においては,スピンをもつ時間反転対称な多体問題を平坦バンドと関連付け,擬ポテンシャルを用いて数値的研究を行うことを考えている。また時間反転対称性の弱い破れを,我々が推進してきた還元密度行列もちいるエンタングルメント量子数の方法をもちいてトポロジカルな観点から多様な系に対して議論することを計画している。関連する研究の一部はごく最近論文としたので,その展開も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度が研究最終年度であり,国際会議等での成果発表に当初の計画以上の経費がかかる見込みであるため,本年度の経費使用を控え最終年度での研究計画に支障の無いように計画した。H30年度は研究最終年度であるから研究を一段と集中的に行い,研究結果を論文として公表することならびに国内,国際会議において広く周知することに努める計画である。
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