スピン1/2をもつ系のハミルトニアンは系が時間反転対称性を持つとき,四元数により表示できることはよく知られている。四元数(Quaternion)とは複素数の2行2列行列で表現できるので,ハミルトニアンは2行2列のブロック対角行列となる。このとき系の一粒子状態はクラマース縮退とよばれる縮退を持つ。本申請者の独自の発案はこの縮退した2つの状態をある特定の位相の組合せでペアにすることで波動関数自体が四元数で表示できる,つまり,2行2列のブロック化された波動関数となることである。 一方,トポロジカル相の典型例である量子ホール効果においては,チャーン数とよばれる波動関数由来のベリー接続が本質的であっことに対応し,一般のトポロジカル相においてもベリー接続はやはり本質的である。よって,時間反転対称な系においては,四元数で表示されるクラマース縮退した状態のベリー接続が本質的となる。波動関数ひいてはベリー接続が四元数となることでコンパクトに表示され,議論の見通しが良くなることに重要である。 本課題では,この基礎理論の(1)多体問題への適用ならびに(2)時間反転対称性の破れの議論という極めて挑戦的な研究を実施した。(1)に関しては,問題を特定のバンドに射影することで一般の多体問題を部分空間に限り,多体問題の困難さを軽減することを目指し,擬ポテンシャルの構成を目指した。時間反転対称をつかわない一般の擬ポテンシャルの理論は完成しその有効性も示し論文も出版した。四元数表示による擬ポテンシャルの方法の検討も進み,その基礎理論はおよそ確立に向かっていて,各論を検討している。(2)に関しては,これも我々独自の手法である量子エンタングルメントを用いたトポロジカル数の手法を四元数化し,まず時間反転対称な系に適用することに成功した。また実四元数を複素化することで時間反転対称性の破れた系での意義を詳細に検討した。
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