研究課題/領域番号 |
16K13846
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
竹内 一将 東京工業大学, 理学院, 准教授 (50622304)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非線形科学 / カオス / 大自由度力学系 / 時系列解析 / 電子回路 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、「時系列解析による大域結合系のLyapunovスペクトル測定手法の開発」「大偏差原理を用いたLyapunov指数測定手法の開発」の2つに取り組んだ。 時系列解析による大域結合系のLyapunovスペクトル測定手法の開発: 平成28年度までに、大域結合カオス系を対象に、局所的な力学変数と平均場の時系列から系全体の接空間における発展方程式を推定することでLyapunov指数のスペクトルを求める手法を開発して、大域結合ロジスティック写像で性能評価を行っていた。平成29年度は、接空間だけでなく、相空間の時間発展についても時系列データから推定することで、完全に時系列データだけからLyapunovスペクトルを測定することに成功した。測定精度の評価も行い、良好な結果を得た。本年度はまた、大域結合リミットサイクル振動子を用いて、連続時間の力学系に対する本手法の有効性を検証した。連続時間の場合、時系列データは局所的な時間発展の完全な情報を含まないため、本手法の有効性が非自明であるが、それでもLyapunovスペクトルの近似値が十分得られることを発見した。また、系固有の対称性を活用し、推定精度を一層高められることも見出した。以上の成果は、複数の学会等で発表し、成果の周知に努めた。さらに、手法の実験検証に向けて、適当と思われる回路の設計を行った。 大偏差原理を用いたLyapunov指数測定手法の開発: Lyapunovスペクトルの中の特定の指数を計測するための新規手法を、大偏差原理に基づき、開発した。平成29年度は、手法の有効性の検証のため、行列の固有値問題に対して本手法を実装し、最大固有値以外の固有値も正しく測定できることを確認した。また、大偏差原理のレート関数を測定することで、本手法の有効性や用いるべきパラメータに関する理論的裏付けを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初の計画で取り組むこととしていたのは、第一に、時系列解析によるLyapunovスペクトル測定手法開発を、大域結合系に対して完成させることであった。これは計画通り達成し、特に連続時間の力学系に対しても手法の有効性を検証することができた。また、対称性の活用により推定精度を向上させる、計画になかった成果も得ることができた。以上の予期せぬ進展に時間を充てたため、年度当初の計画に含めていた回路実験への手法適用は見送ったが、その実現に向けて適切と思われる回路の具体的な設計を行った。 大域結合系について、当初計画になかった進展が得られたため、近接結合系への適用は新たな進展の進捗を見極めてから取り組むこととし、代わりに当初計画では最終年度の研究としていた、大偏差原理を用いたLyapunov指数の測定手法の開発に着手し、十分な成果を得た。 以上のように、当初計画と比べ、内容の入れ替えはあったものの、三年間の研究課題全体としてみれば順調な進捗を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度までの研究で、大域結合カオス系に対しては、時系列解析に基づく提案手法の数値的検証ができたので、論文執筆とともに学会発表等に努め、他の成果に先行して成果の周知を行う。 平成30年度は、提案手法を近接結合系に対して実装する。結合写像格子等の数値計算によってその有効性を検証し、測定精度等を評価する。また、平成29年度に行った設計に基づき、平成30年度はカオス回路実験系の製作を行う。実験的に時系列データを取得し、提案手法を適用して、Lyapunovスペクトルの推定を行う。結果を数値計算の場合と比較することで、実験系に対する提案手法の有効性を検証するとともに、回路素子パラメータの個体差など、実験系特有の要因が推定値に及ぼす影響の程度も評価する。 また、大偏差原理に基づくLyapunov指数測定手法の開発も継続する。平成29年度の研究により、行列の固有値問題に対して本手法の有効性を確認できた。平成30年度は、少数自由度の力学系に対し手法適用し、力学系に対する有効性を検証する。その際に、双極性の有無など、性質の異なる力学系を複数比較検討することで、本手法の有効性に対する影響を評価する。 また、以上の二つの手法の統合、すなわち時系列解析に基づいて推定した大自由度系の発展方程式に対して、大偏差原理によって特定のLyapunov指数を推定することが可能かどうか、本研究課題を通して蓄積された知見に基づいて可能性の検討を行う。 以上、本研究課題を通して得られた成果は、様々な学会等で発表するとともに論文を執筆し、成果の周知を行う。
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