平成30年度は、時系列解析によるLyapunovスペクトル測定手法の開発を継続した。Lyapunovスペクトルとは、不安定性を特徴づける量であるLyapunov指数からなるスペクトルで、本課題で開発する手法の主たる計測対象である。 大域結合系については、前年度に引き続き、大域結合リミットサイクル振動子を用いて、連続時間の力学系に対しても本手法が有効あることを検証した。精度改善のための各種方策も提案して、手法開発を完成させることができた。以上の成果は論文にまとめ、Chaos誌のfast track articleとして出版したほか、各種国際会議等で講演し、成果の普及に努めた。 また、近接結合系においても時系列解析からLyapunovスペクトルを測定する手法の開発を行った。具体的には、まずは結合写像格子系に対して本手法を改変、適用し、局所力学変数と、近接点の力学変数から、Lyapunovスペクトルを正しく計測できることを実証した。次に、偏微分方程式系である蔵本-Sivashinsky方程式に注目し、空間離散化した際の局所力学変数と、近接点・次近接点の力学変数の値から、Lyapunovスペクトルの推定を試みた。その結果、局所的な時間発展に必要な変数の数がこれまでより増えた関係で、従来のアルゴリズムではメモリ使用量が膨大になってしまい、変更が必要となった。現在、各種手法を比較検討し問題の解決を試みている段階である。 平成30年度はさらに、近接結合系の場合に相当する実験系として、周期的せん断下の粒子系が、せん断振幅に応じて可逆運動と不可逆運動の間の相転移を示す報告に注目し、それを高密度系で計測する実験系を構築した。結果、非カオスの可逆運動から、カオスと思われる不可逆運動の相転移を確認できた。現在、粒子運動の計測データから、本手法の適用を検討しているところである。
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