研究課題/領域番号 |
16K13847
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中尾 裕也 東京工業大学, 工学院, 准教授 (40344048)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非線形ダイナミクス / 量子散逸系 / 縮約理論 / 同期現象 |
研究実績の概要 |
本計画では、近年研究の進んでいる量子散逸系における非線形振動の同期現象を扱うための数理的枠組みの構築を目的としており、今年度は研究計画の3年次であった。量子的な非線形振動子の典型例として、多くの研究では最もシンプルな量子van der Polモデルが仮定されており、また、その同期現象を記述するために、sin型の結合関数を持つ位相モデルが用いられている。しかし、それらの位相モデルの導出は古典系において標準的な位相縮約理論に基づかないものであり、完全な回転対称性を持つvan der Polモデル以外には適用できなかった。そこで、一自由度量子系の量子状態に対して、位相空間表示を用いた定量的な位相縮約理論を半古典近似の下で定式化した。これにより、van der Polモデルに限らず一般の一自由度量子系に対して位相方程式を導出できるようになった。この定式化の妥当性を検証するため、元の量子系の直接数値シミュレーションで得られた密度行列・スペクトルと、得られた位相方程式から再構築された密度行列・スペクトルを比較し、量子性の比較的弱い条件下でよい一致を得た。さらに、導出した位相方程式を用いて強いスクイージングにより回転対称性の破れた量子非線形振動子の同期現象を解析し、元の系の直接数値シミュレーションの結果を適切に再現できることを確認した。以上の結果は国内外の学会で発表し、また、関係するジャーナル論文1件と国際会議論文1件をそれぞれ投稿中である。さらに、量子非線形振動子の注入同期現象の最適化や、量子的な観測による同期の向上などの現象について、解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一自由度の量子散逸系の非線形振動に対する半古典位相縮約理論を構築し、その妥当性を確認できた。また、その結果を学会で公表するとともに論文として投稿することができた。今後、さらなる拡張や応用が可能だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本計画自体は今年度までであるが、量子同期現象は世界的に研究が盛んになりつつあり、今後も引き続き研究を進める。本計画で定式化した理論に基づき、量子非線形振動子の注入同期現象の最適化や、量子的な観測による同期の向上、量子センサーへの応用など、様々な発展が可能であると考えられる。また、本計画で考察したような縮約理論が、より量子性の強い領域において、どこまで拡張可能なのかは、基礎科学的に重要な問題である。以上のような問題について、考察を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
半古典量子位相縮約理論に関する論文の投稿に際して必要な数値計算が想定よりも多かったため、平成30年度内には完了せず、平成31年度4月上旬までこれを実施した上で平成31年度4月末に論文を投稿することとなった。そのため、予算残額をこの論文の掲載費用として平成31年度中に使用する予定である。
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