強い相互作用はQCDと呼ばれるSU(3)非可換ゲージ理論で記述される。この相互作用はエネルギーの低いところで強くなる性質があるために、クォークと反クォークの引力が強まり、ペア凝縮を起こす。この時カイラル対称性が自発的に破れて、クォークの力学的な質量が生じる。この現象は有限温度、有限密度においては、相転移となり、パラメタ領域によって2次転移あるいは1次転移となる。 このカイラル対称性の自発的破れを非摂動くりこみ群で解く。くりこみ群方程式はエネルギースケールの高い(波長の短い)量子ゆらぎから先に足していくという物理的意味を持っているので、あるスケールで十分な量のゆらぎが足されて、自発的に対称性が破れることになる。つまり、くりこみ群方程式はあるスケールで特異点にぶつかり、通常の微分方程式の意味では、その先の解は存在しない。 しかし、くりこみ群方程式を赤外の最後まで解かないことには、自発的に生成したクォークの力学的質量やカイラル凝縮という重要な物理量を計算することはできない。従来は裸の質量や補助場でカイラル対称性を陽にやぶってこの特異性を回避する方法がとられていたが、十分な精度で計算することはできない。そこで、くりこみ群方程式自体を弱くりこみ群に切り替え、弱解によってカイラル対称性が自発的に破れるスケールを乗り越え、赤外極限までくりこみ群方程式の大域解を定義し、それによって、クォークの力学的質量やカイラル凝縮を計算可能とする。これらの結果を学会で発表した。 また、相転移現象についての全く新しい捉え方が深層学習で可能になるという最近のいくつかの研究に対して批判的に検証し、深層学習が捉えたものは相転移を記述する秩序変数ではなく、温度の関数としての自由エネルギーそのものであるということを新たに発見して、学会及び論文で発表した。
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