一般相対論で定式化された古典重力場の方程式の動力学的性質が、近年の観測や数値シミュレーションによって次第に明らかになりつつある。数値シミュレーションを始めとする理論解析においては、球対称性を仮定するなど方程式の自由度を下げることが重要である。自由度を下げつつ、同時に、解が豊かな構造をもつものがゲージ重力対応(AdS/CFT対応)から得られている。この場合、方程式は負の宇宙項を持ち、先行研究の数値シミュレーションによると解は乱流的になると報告されている。この乱流解を古典流体の乱流の手法を応用して解析することが本研究の目的である。 本年度は、昨年度にひき続いて、先行研究の数値シミュレーションを、同様の計算アルゴリズムをもちいて追試した。特に、昨年度は数値的な不安定性が生じるため長時間のシミュレーション実行が難しかった。今年度はこの不安定性を克服し長時間シミュレーションが可能になった。 この結果、先行研究が報告している乱流的な性質が追試でもほぼ再現された。特に、この系の大域的な保存量である質量が様々な空間スケールにどのように非線形性によって配分されているか(質量スペクトル)について、べき則になることが再現された。予想に反して発展初期においても同様のべき則が得られた。そこで、保存量の非線形輸送を特徴づける質量流束を解析した。この結果、時間的な粗視化をすれば、古典乱流に類似した空間スケールに依存しない一定の流束が見られ、乱流的なカスケードが生じていることがわかった。しかし、このカスケードでは質量配分のべき則のべき指数は定量的に説明できない。他方で、時間粗視化スケールが小さい場合には逆カスケードが準規則的に生じていることも判明した。この点に古典乱流描像との大きな相違があると考えられ、その現象論的なモデル化によってべき則を説明できる可能性がある。
|