本研究では、巨視的物体の量子力学的性質を解き明かすことを目的としている.冷凍機によって4Kの低温まで冷却された振動子を、さらに光-機械結合を用いたレーザー冷却によって抑圧することで、振動モードの基底状態に近い状態を作り出す。その変動を測定することで、フォノンの吸収/放出確率の非対称性などの量子的性質を実験的に確認する。近年では、nmからμm程度の大きさの物体で基底状態の実現や量子的性質の観測が行われているが、本研究では、cmスケールでの基底状態の実現を目指す挑戦的な研究となっている。本研究は、巨視的物体の状態重ね合わせや量子でコヒーレンスといった基礎物理的な観点だけでなく、量子メモリの実現といった応用のための萌芽的研究とも位置付けられる。これまで、低温冷却システムの再構築と振動子の設計検討を進めている。本研究では、振動子を冷却するためにパルス管冷凍機および、クライオスタット装置を使用している。前年度までに再設置が進められたこの冷却装置の稼働準備をすすめてた。その結果、冷凍機動作時に置ける振動や、音響雑音、排熱による実験室内温度変化の影響を排除することができた。振動子の設計においては、ねじれ振動子の特徴を生かすことで低周波数の微小力の直接測定や、それを用いた精密実験(量子輻射圧雑音の直接測定や、空間の量子化に関するCSLと呼ばれる理論の検証)が可能になることを示し、その予備実験を進めた。その結果、振動子の熱雑音を評価するまでに測定系を完成させることができた。今後は、防振や冷却といった本格的なセットアップでの測定が課題となる。
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