研究課題/領域番号 |
16K13857
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
相川 清隆 東京工業大学, 理学院, 准教授 (10759450)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ナノ粒子 / オプトメカニクス |
研究実績の概要 |
本研究では、量子光学の技術に基づき、単一ナノ粒子のレーザー光中での重心の振動運動を計測することで、その組成を非破壊で分析し、組成毎に試料を分級する技術を創成することを目指している。平成28年度の研究では、当初想定していたより多くの材質のナノ粒子において、レーザー光に捕捉した状態で真空に移行すると消失することが確かめられたため、平成29年度はさらに多くの材質に関し、レーザー捕捉の研究を進めた。 その中で、特定の材質のナノ粒子を捕捉すると大気中で強い発振が生じることを見出し、この現象が2個のナノ粒子の軌道運動であることを明らかにした。この軌道運動は、ナノ粒子の材質や粒径によって起きやすさが異なっており、ナノ粒子の材質による違いに着目した本研究ならではの成果といえる。ただし、その原理については未解明であることから、今後の研究が必要である。 一方、平成29年度の研究を経ても、真空中に移行できるナノ粒子の材質は3種類に留まっており、多様な材質を真空中で扱うためには、現在用いているレーザー捕捉とは異なるアプローチが必要であるとの結論が得られた。真空へ移行できる材質が想定していたよりかなり少ないこと、また軌道運動に関する研究に一定の時間を割いたために、現在までの進捗状況は当初の計画よりやや遅れている。 また、シリカを利用した研究において、高真空下でのナノ粒子の振動の様子を表すパワースペクトル密度の線幅から直接ナノ粒子の感じる光ポテンシャルの深さを測定できることを見出し、論文として発表した。これは光との相互作用を利用してナノ粒子の大きさを測定することに相当している。 今後は、真空へ移行できることがわかっている材質について、レーザー捕捉した際の振動周波数を正確に測定し、本研究の目的とする光との相互作用を利用した
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き、従来用いられてきたシリカ以外の材質からなるナノ粒子の大気中でのレーザー捕捉と、この状態での真空への移行の実験を行った。その結果、平成28年度に見出した2種類のほか、1種類の粒子について、真空へ移行できることを確認したが、その他の6種類の材質からなるナノ粒子は、レーザー捕捉ができないか、あるいは真空へ移行すると消失することが確かめられた。これらの実験から、多様な材質を真空下で扱うためには、現在用いているレーザー捕捉とは別のアプローチが必要であるとの結論に達した。真空へ移行できる材質のナノ粒子については、その振動周波数の測定が可能であるが、材質による差異は予想より小さく、安定な捕捉のために光格子を利用している現状では、捕捉する場所によって光強度が異なることから、材質の判別が難しいことがわかった。 また、これらの実験を行う中で、特定の材質のナノ粒子を光格子に捕捉すると、大気中にもかかわらず強い発振が生じることを見出した。このような現象はこれまで知られていなかったため、さらに詳しく調べた結果、1つの光格子に捕捉された2個のナノ粒子が互いに軌道運動を行う現象であることが確かめられた。ただし、その原理については解明できておらず、さらなる研究が必要である。 真空へ移行できる材質が想定していたよりかなり少ないこと、また軌道運動に関する研究に一定の時間を割いたために、現在までの進捗状況は当初の計画よりやや遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
真空へ移行できる材質のナノ粒子については、単一ビームで捕捉するなどして毎回同じ条件で振動周波数を測定できるようにすることで、高い真空度において材質の判別が可能であると考えており、今後はこの方向性を追究する予定である。一方、レーザー捕捉した状態で真空に移行できない材質のナノ粒子については、光以外の別の手段で捕捉する、全く異なるアプローチの開発を予定している。 また、今回の研究で新たに発見された、2個のナノ粒子による軌道運動について、計算・実験の両面から原理の解明を進めていきたいと考えている。この現象は、ナノ粒子の材質によって起きやすさが異なることから、その追究によってナノ粒子の材質に着目する本研究に有用な知見が得られるものと期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究遂行中、従来知られていない実験結果が得られたため、これを理解するための追加の実験的および理論的研究を行うと共に、それらに関連する論文の執筆・投稿を行った。これらの活動のために次年度使用額が生じた。残額は、本年度に完了できなかった、真空へ移行可能な材質に対する材質の判別の研究、および光以外の別の手段でナノ粒子を捕捉する技術の開発に充てる予定である。
|