研究課題/領域番号 |
16K13858
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
鈴木 隆行 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (80539510)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | フェムト秒光パルス / 超高速分光 |
研究実績の概要 |
初年度は計画通り、要素技術の設計・開発から、最初の分光計測の達成までを行った。光パルスの周波数成分を時間軸上でマッピングするための分散素子を設計した。特に本研究では将来の応用性のために通常品の光ファイバーの長さだけをパラメータとすることを想定し、そのために必要な長さを見積もった。1000mの光ファイバーを実際に用いて分光測定を実施したところ分散量が過大であることを示唆する結果が得られたので、100m,200m400mの各長さの光ファイバーを用意し、それらを単独もしくは組み合わせて使うことにより、100m-700mまで100m刻みでのファイバー長に対する分光実験を実施した。これによりパルス繰り返し周波数とスペクトル帯域で決まるファイバー長の最適値を見出した。さらに従来型の分光器で得られるスペクトルと比較することで波長校正を行い、現実的な分光器として機能することを確認した。 上記の測定には、並行して高速な光検出システムの構築も必要であり、GHzの応答速度を持つファイバー入力型のフォトディテクターと帯域8GHzの高速オシロスコープを組み合わせて、周波数分解能も従来型の分光器と同等に得られることを確認した。 2年目に予定した詳細な分光器の評価も前倒しで開始した。スペクトル校正や周波数分解能の評価を確実かつ正確に行うために、マイケルソン型の干渉計を構築し、干渉スペクトルを試験スペクトルとした。干渉計の2つの光路長を変更することでスペクトル上のフリンジの細かさを自由に調整できるので、本研究で開発した分光器の性能を詳しく評価できた。これらの成果は第64回応用物理学会春季学術講演会で発表し、当該研究者への有用性を紹介した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本計画では初年度に分光器の設計開発とその簡単なデモンストレーション、次年度に詳細な評価を計画していた。しかし、設計開発が順調に進み、試作品の製作、問題点の洗い出しがすぐに済んだため、改良型の装置の開発に早々に着手できた。このため、分散素子として利用する光ファイバーの長さに対する依存性を早い段階で検証できたうえに、干渉スペクトルを利用するといった手法を考案したことで、その詳細な評価の大部分を初年度のうちに達成することができた。次年度は残る評価項目である分光感度について調べるとともに、さらに高い目標として、非線形分光への応用可能性をも探れると見込んでいる。これらのことが達成できれば、萌芽として始めた研究が、その研究期間中に実研究へと昇格できたことになり、当該研究の趣旨から考えるとかなり大きな進展である。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度に予定していた高速分光器の詳細評価のかなりの部分はすでに着手しており、進展としては計画以上である。当初の計画にある中で残っている分光感度に関する評価についても早々に完了し、実際の分光研究まで発展させるのが本年度の新たな目標である。 分光感度の評価に関しては、すでに異なるファイバー長においてその透過率を実測しているため、石英ファイバーの内部透過率とファイバーの入力損失を考慮して、分光感度の指標にまとめる。また、ファイバーのコア径に対する波長の大きさがどのように影響するかを調べ、その結果として現れるスペクトルの歪みを明らかにする。 上記の分光器としての性能評価を完了させた後は、計画以上の成果として実際の非線形分光への応用にも着手する。特にフェムト秒光パルスを凝縮相に照射すると非共鳴のラマン信号が観測されることが知られているので、その信号の観測から始める。可能であれば今年度中に共鳴のインパルスブラマン計測を目指し、実際の非線形分光に応用できることを示す。 最終的にはラマン分光を基礎とした2次元、3次元の分子分光計測を目指しており、高速に取得されるスペクトル情報を高速に処理するデータ解析手法の開発にも着手したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究の初期に購入予定の1000mの光ファイバーは、予算執行前に大学予算を充てることで賄った。これにより予算上の余裕と、研究計画の前倒しが可能となった。予算上の余裕分は計画を前倒しすることに費やし、そのために次年度(本年度)に予定していた計画を前倒しで遂行できた。初年度の予算の残額は、上記のように大学予算で一部賄った分のプラスから前倒しして研究を遂行して使用した分のマイナスの差引額である。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度の計画の一部はすでに初年度に遂行済みであるが、新たに実際の分光計測まで研究を発展させようと計画を拡張している。そのため、繰越予算と本年度の予算とを合わせて、残りの本年度計画を遂行するととともに、予算の許す範囲で発展的研究へと舵を切るつもりである。 実際にはこのために分光セルや試薬、さらには光学系の追加が必要となるが、それらを本予算で賄って実施する。
|