長距離光ファイバー伝搬によって超短パルス光に高分散が付与される結果としてパルス幅が伸長する効果を利用し、光パルスのスペクトルを時間の関数として計測する機構の開発と、その原理実証、定量評価を目的として研究を推進した。初年度のうちにファイバー長の依存性を明らかにし、さらに干渉スペクトルへの応用、波長校正と主だった項目に関しては達成できたので、研究実施計画の枠を大幅に超え、実際の分光測定への応用へと展開した。 これまでに別の研究で広帯域スペクトルの一部の波長成分に位相変調を施すことで、分子固有の振動スペクトルを位相変調と同期した成分として検出できる「位相敏感ラマン測定法」を開発してきた。本研究ではこれによって得られる分子振動由来のラマンスペクトルを試験スペクトルとして検出感度の調査を行った。実際に開発した時間領域の分光器でスペクトルの検出を試みたが、およそ一桁ほどの感度不足が明らかとなった。この結果から本測定をはじめとした信号強度の弱い非線形分光には別個の高感度化の工夫が必要であると分かった。また、本研究で利用したラマン分光は、この実験のために急遽立ち上げた光学系であるため、この分光測定自体をさらに高度化する余地がまだある。分光測定の方面から信号強度を増強する工夫をすることで開発したスペクトル取得法を実際の応用研究に活用する第一歩とできると期待される。 上記の分光測定に関する進展と結果は生命科学や医療分野への応用性が特に高いと考えられる。このため、本成果は第55回日本生物物理学会のシンポジウムで紹介し、当該分野の研究者に広くアピールした。
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