研究課題
平成28年度は,理化学研究所の極低温静電型イオン蓄積リングRIKEN Cryogenic Electrostatic ring (RICE)を利用し、N2O+イオンの生成・蓄積を行うとともに、レーザーを用いた前期解離分光(N2O+ + hv →NO+ + N)実験をスタートした。電子サイクロトロン共鳴(ECR)イオン源にN2Oガスを導入し、10-20W程度のマイクロ波を導入することで分子状のN2O+ビームを安定に引き出すことに成功した。また、10keVに加速したN2O+ビームを蓄積リングRICE内へ入射し、蓄積パラメータの最適化を行った。UVレーザー光と同軸に飛行してくる中性粒子を検出するため、鏡面研磨アルミ電極を用いたダリー型検出器を開発し、OPOレーザーを用いてUV光への応答をテストした。電極形状および研磨面の最適化の後、蓄積リング内へとインストールし、N2O+ビームの中性解離フラグメントの観測を行った。従来のマイクロチャネルプレートを用いた検出器と同等の検出効率を確保しつつ、バックグラウンド信号レートは数分の1に抑制された。また、分光用光源として、峡線幅色素レーザー(SIRAH Cobra-Stretch)のセットアップを行った。Nd:YAGレーザーの2倍波(532nm)でDCM色素を励起して660nm付近のレーザー光を発振し、倍波の330nm光を蓄積ビームのバンチ構造に同期させて照射した。蓄積時間250マイクロ秒において、N2O+イオンのA2Σ+←X2Π2/3 (000)-(200)遷移を励起したところ、前期解離にともなう中性N原子フラグメントが検出された。レーザー波長をスキャンすることで回転スペクトルの観測に成功し、シミュレーションと比較することでN2O+分子の回転温度を見積もった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初予定していた分子イオンビームの蓄積、中性検出器の開発は全て完了した。研究開始以前にイオン源のR&D、および検出器設計・シミュレーションを入念に行っていたために、順調に開発を進めることができた。さらに、次年度に予定していたレーザー分光実験を前倒しして開始することができており、計画以上に進捗している。
初期計画に沿って、より長時間蓄積したN2O+イオンの回転スペクトルを観測していく。時間とともにリング内のビーム量は減少するため、より長い計測が必要となることが予想される。効率的に測定を行うために、高繰り返しポンプレーザーの導入を検討している。
中性フラグメント検出によるレーザー分光実験において当初計画以上に進捗があったため、回転スペクトルの観測を優先的に進めている。そのため、親イオン検出器の開発を次年度に行うこととした。
次年度に、延期した親イオン検出器の開発を行う。繰越予算は、イオン検出に用いる信号増幅器の購入および周辺回路の製作に使用する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Design and commissioning of the RIKEN cryogenic electrostatic ring (RICE)
巻: 88 ページ: 33110
10.1063/1.4978454
原子衝突学会誌 しょうとつ
巻: 13 ページ: 117-125