研究実績の概要 |
三次元空間における真正粘菌の行動として多数の餌場を結ぶ管ネットワーク形成の研究を行なった.粘菌が形成する管ネットワークは二次元平面上と三次元空間内では空間の自由度の違いにより性質が異なる可能性がある.三次元構造物内における粘菌の管ネットワークを実験および数理モデルを用いて調べた. 実験は以下の様に行なった.光重合型3Dプリンタで作製した三角メッシュで構成した直径4.0cmのジャングルジム様の構造物に1.5gの粘菌変形体を乗せ,構造物の隅々まで広がった後,6個または8 個のエサを構造物内に置いた.このサンプルを回転ステージの上に乗せ,その回転とカメラのシャッターをマイコン制御し,80の異なる方向から10分間隔で撮影した.異なる角度からの画像間で同じ粘菌の部分を同定し,粘菌の三次元的な形状を再構成した.粘菌の形成する管ネットワークは10時間から15時間でほぼ定常状態に至り,その時のネットワークを評価した. その結果,粘菌は三次元空間では6ノード(6つのエサ)の場合(N=7)はいずれのサンプルも平面に埋め込み可能なネットワークを形成したが,8ノード(N=7)では平面に埋め込むことのできないネットワークを形成する場合があった.粘菌の形成する管の数については,6,8ノードいずれの場合も最小全域木に近い数から完全グラフの3/4程の数までであり,8ノードの場合,18, 20本の管(完全グラフは28本)からなるネットワークの場合に非平面グラフであった. 管形成の手老・小林モデルを三次元に拡張し,流量と成長指数を変化させネットワーク形成の数値シミュレーションを行ったところ,実験でサンプル毎に見られたネットワークの性質の違いは,全体の流量の違いよりも成長指数の違いによる変化に近かった.これは,個々のネットワークのバリエーションは粘菌の内部状態の違いによるものであることを示唆している.
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