研究課題/領域番号 |
16K13866
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
住野 豊 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 講師 (00518384)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 自己駆動粒子 / パターン形成 / 細胞運動 / 細胞変形 |
研究実績の概要 |
本研究は基板上を這行運動する細胞集団を非生物系の実験によりモデルすることが目的である.集団の運動様相をモデルする実験系としては(a)電気浸透流により基板近傍で集合・離散を示す粒子系,(b)水面上を運動する液滴系に関して研究を遂行した.(a)電気浸透流により自己駆動し集合・離散を示す粒子系に関しては,3次元的に粒子が堆積する際の集積様相やサイズの異なる粒子が混在することによる集積ダイナミクスとのスローダウンが見いだされた.これらの結果に関しては物理学会・コロイド界面化学討論会で発表された.(b)水面上を運動するペンタノール液滴に関しては,テフロン板上にOHPシートを切り抜いた容器を用い集団運動様相の観察を行った.この容器を用いることで液滴が壁面に付着しなくなり,長時間の観察が可能となった.このような液滴の集団様相を長時間観察することで,液滴が多数集合し運動の抑えられた集合構造が生まれることを見いだした.また2つの円をつないだ形の容器を用い,一方の円にのみ液滴を注入した条件から実験をスタートさせた.すると,液滴が他方の円に移動する際,他方の円に液滴がより多く移行してしまうオーバーシュートが生じることを見いだした.以上の結果は物理学会で発表された. 更に数理モデルとして自ら運動する粒子の最も簡便な数理モデルであるVicsekモデルを拡張し,2状態間の遷移を取り入れた数理モデルを構築した.すると状態間遷移確率が高い場合にはランダムになる一方,状態間遷移確率が低い場合には配向秩序が生まれることを見いだした.これらの結果に関しても物理学会において発表された. また本年度は這行運動する細胞運動の変形運動のモデルといえる,ヘレショウセルと呼ばれる薄いセル中でみられるパターン形成の理解に関して実験・理論の両面より理解が進展した.以上の成果に関しては発表論文として現在投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗として,レーザー光を用いない実験系に関しては予定通りの進展が見られている.一方で,レーザー光を用いた仮想容器作成に関しては現在実験系の構築が難航している.また数理モデルに関しては,単純化を進めたVicsekモデルの拡張系や実験系を反映した数理モデル系双方において順調な進捗が見られている.以下に詳細を記す. 電気浸透流を用いて集合・離散を示すコロイド粒子系の実験,基板の処理方法・粒子の表面処理方法など実験環境が整備され再現良く実験を行うことが可能となった.3次元的に集積する条件に関しては画像処理プログラムも整備され,系統的なデータ取得を行うことが可能となった.また,サイズの異なる粒子を混合することで,乱雑さが維持され緩和が遅くなる条件に関しても実験条件の同定と局所秩序変数の取得プログラムも完成し系統的な実験により集積ダイナミクスの理解が進むものと思われる. 水面上を運動するペンタノール液滴系に関しては,概ねデータ解析が終了しており,後述の数理モデル系と組み合わせることで学術論文としてとりまとめる予定である.更に,水相中で運動する油滴系に関しては現在流路を構築し,同一サイズの液滴を効率よく作成する系が完成しつつある. レーザー光を用いる実験に関しては,所有していた顕微鏡を流用しレーザートラップ系の構築を行った.しかし現状レーザー光を適切な焦点面に導入できていない.これは所有の顕微鏡が外部レーザー光の導入に不向きな構造をしているためである. 最後に,数理モデル系に関して粒子間の遷移を導入したVicsekモデル系や,under dampingな条件も考慮できるcavagnaモデル系に関して相図の作成など順調な進捗が見られている.さらに濃度場を介して運動を示す粒子系に関しても,実験との対比を含めて新たな知見が得られるなど順調な進捗が見られている.
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今後の研究の推進方策 |
早急にレーザー光を用いた仮想容器作成を行う.これまで使用していた顕微鏡に代えて,新たに入手した側面開口ポートのある顕微鏡に音響光学ディフレクターを含めたレーザー関連の設備を移行させる.また,この際,知見のある研究者に指導を依頼しレーザー光仮想容器作成を前期期間中に完成させる.その後,後述する電気浸透流を用いた運動するコロイド粒子系や水相中で運動する油滴系,磁場により駆動されるコロイド粒子系に応用する.これにより自己駆動する粒子の力学特性を明らかにし数理モデルの構築を進展させる.また,同時に光そのものによる駆動系の構築を進める. 電気浸透流を用いて自発駆動するコロイド粒子系に関しては,すでに集団運動様相で観察すべきパラメータ領域がほぼ定まっている.また測定すべき物理量や画像処理に必要なプログラムも構築しているので,これらを用いることで3次元的に集積するダイナミクスの統計的性質や,異種粒子混合による集合ダイナミクスのスローダウンなどを明らかにする. 水相中で自己駆動する油滴系に関しては,多数の同一サイズの液滴を一度に作成するdroplet generator技術に関して更に進展させる.油滴のサイズをある一定の領域にすると,周期的にその場で揺らぐことが見いだされていることから,このようなサイズの油滴を多数集め,集団の同期様相を観察する.また,今年度より新たに磁場で駆動するコロイド粒子系の構築も進める. 水面上を駆動するペンタノール液滴系に関しては濃度場を介して運動・相互作用する数理モデルの構築を中心に論文にとりまとめる.またこの数理モデルに関して縮約をおこない集団の振る舞いを簡略な偏微分方程式系で表す.更に,より抽象化された集団運動のモデルとして,Vicsekモデルおよびその拡張といえるCavagnaモデルの数値計算に関しても相図をベースとした解析を進め集団運動の普遍性を見いだす.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度物理学会に参加予定の学生が,急遽参加日程を減ずる措置を執ったため.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度予算の消耗品費と併せて使用する予定である.
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