本研究の目的は、電荷移動型高秩序液晶の電子線透過による一方向回転について、起源とメカニズムを解明することである。前年度の実験で、電子線照射により回転する高秩序液晶試料は,必ず一部が液体状態になっており、その液体部分が比較的大きな領域を占めるときに、より高い効率で回転することがわかった。この結果を踏まえて最終年度は、共存状態にある試料の高秩序相(SmE相)と液体相(SmA相)が空間的にどのように分布しているのか、またその分布は何によって決まるのか、を調べた。具体的な2相の分布は、SmA相がSmE相より3桁速い分子拡散を示すことを利用し、気体分子透過係数測定により求めた。分子長軸に沿った気体分子の拡散係数を、アクセプターに対するドナー比を変えた試料で測定したところ、ドナー比が0.05%を超えたところで1桁以上不連続に減少した。分子拡散の不連続な低下は、SmE相の微小ドメインがSmA相中に生成されたことを伺わせるが、ドナー比が2割以下のSmA試料はX線回折実験においてはSmE相を表す回折ピークを示さなかった。しかし、同じ試料の電子線回折像を撮ったところ、瞬間的にSmE相の格子構造に対応する回折スポットが現れることがわかった。この結果は、局所的にSmE相ドメインが生消滅していることを示唆する。以上の実験結果をまとめると、電荷移動型液晶のSmE-SmA共存相に電子線を照射したとき、電子線はドメインの回転を駆動するだけでなく、SmE相の核成長を促進する役割も果たしている可能性が高い。電荷移動型液晶と電子線との非線形結合が、電子線による試料の回転という現象の鍵となっていることが明らかになった。
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