研究課題/領域番号 |
16K13873
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関根 康人 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (60431897)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 太陽系形成 / 有機合成 / 巨大天体衝突 / 化学進化 |
研究実績の概要 |
本研究では、太陽系天体に見つかる有機物の分布や組成などから、その出発物質や化学進化過程、生成環境の特定を行うことを目的とし、これまでほとんど解釈されなかった天体上の有機物を指標として、太陽系形成進化史を明らかにする研究の潮流を創り出すことを目指す。 当該年度では、探査機ニューホライズンズが発見した冥王星表面の赤道領域に広がる褐色の有機物の存在(クトゥルフ領域)から、冥王星の衛星カロンが巨大天体の衝突(ジャイアント・インパクト)によって形成したこと明らかにした (Sekine et al. Nature Astronomy, 2017)。まず、有機合成室内実験によって、冥王星に存在する単純な分子種が、およそ50℃以上で数か月以上加熱されると、クトゥルフ領域に存在するような褐色の有機物になることを示した。そして。数値シミュレーションによって、そのような加熱がカロン形成のジャイアント・インパクト時に、クトゥルフ領域と同程度の領域に生じることを示した。本研究は、カイパーベルトで頻繁に起きていたジャイアント・インパクトが、これら天体の表面の色の多様性を生み出したという新たな描像も提案する。このことは、地球―月系の起源であるジャイアント・インパクトと合わせて、太陽系初期には地球形成領域から太陽系外縁部までを巻き込む大変動があり、これを経て現在の姿になったことを示唆する。太陽系初期に巨大天体衝突ステージを経て現在の姿になったことを、実証的に示すものであり、化学進化のみならず太陽系形成の理解においても重要な研究となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた探査機カッシーニの観測結果に加えて、ニューホライズンズの観測についても本研究結果が応用できることがわかり、液体の海をもつ天体の生命存在可能性だけでなく、太陽系形成過程の制約へも拡張することができている。これは新しい研究の展開であり、今後引き続き行われる探査においてさらなる発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年9月に観測を終える探査機カッシーニによる、氷衛星エンセラダスのプルーム噴出物の観測結果の解釈を進める。特に、カッシーニが観測した高分子有機物の質量分析結果と、本研究による実験結果を比較することで、エンセラダス内部での高分子有機物ができる内部環境、化学組成、官能基や構造を推定する。室内実験では、これまで制約した熱水環境(90℃以上、pH 9-11、コンドライト岩石組成)において、出発物質組成によって、どのような高分子有機物の組成、官能基、構造に変化があるかを明らかにする。
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